異世界に飛ばされた僕の従騎士生活

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
78 / 127
二度目の砦生活

ジュリアンの焦燥

しおりを挟む
私は幕内をぐるぐると歩き回っていた。

後から考えると、この時の私は捕らえられた猛獣さながらだったろう。しかし他人にどう見られるかなどと気にする暇も無いほどに、私は焦れていた。

シンが敵国、夜の国に囚われたのは間違いない様だった。敵の陣に潜ませているこちらの密偵が最近の不穏な動きを伝えて来ていた。一年前の戦いの後、戦神と呼ばれる第二王子が砦に来た事。私達が王都へ出向いた際に、王子の命令で参謀がシンの拉致を図った事。

私はあの時の心臓が凍りつく恐怖を思い出した。
嫌な汗が背中を伝うのを感じながら、シンが今第二王子の手中に居ることを認めない訳にいかなくなった。


「ジュリアン、夜の国の砦には戦上手な騎士団長のゲオ、蛇の様に残虐で有名な参謀ケブラが居る。その上、第二王子まで出張って来るとは…。我々には手強いどころでは無いが、シン君の奪還を諦めている訳では無い。それだけは間違うな。」

黒騎士団長は、私を真っ直ぐに見つめながら言った。
私は深く頷きながら騎士の礼を取った。

「団長、私に彼方の砦に向かわせて下さい。まだシンが消えてから時間は経っておりません。今なら…。」

我々を遮る声が聞こえたのはその時だった。


「ジュリアン、慌てるな。無闇に突き進んで勝算があるのか?お前まで拿捕されては敵わない。私に考えがある。
丁度ここを長い間留守にしてた際に、王都の魔法士達と開発した魔法陣がもしかしたら上手く使えるかもしれない。さっきまで準備していたんだ。丁度いい。皆で見てくれないか。」

私が団長に一人で行かせてくれと願い出ていた時に幕内へ入ってきた副団長が、息を切らせて言った。
幕内に居る我々は副団長の手にある魔法陣の素に目をやった。

「ローディ、例の魔法陣が出来上がったのか?」

団長が驚いた様に身を乗り出した。


「はい。というか、間に合わせたというか。これが上手くいけば良いのですが、試す時間は有りませんからね。
説明する時間も惜しい。何度も言わないからよく聞け、ジュリアン。

この魔法陣を、あのシン君が消えた場所へ設置する。あそこにはまだ魔法の気配があるから、この追跡型魔法陣でシン君の所まで自動的に連れて行ってくれるだろう。…ただし、完全に行けるのは行きだけだ。帰りの魔法陣はまだ未完成なんだ。

…もしもシン君が怪我でもしていたら、連れ帰るのは困難を極めるだろう。

我々はジュリアンが出立してから、砦の境界付近に待機する。何とか近辺まで帰って来られれば、我々も多少は無理を推し通す事が出来よう。一番はフーガに乗って帰ってくる事だが。フーガが何処に居るかはこちらでも把握していないからな…。

優先すべきは、お前とシン君の帰還だ。剣豪のお前でも困難を極めるだろう。出来そうか?ジュリアン。」

ローディは私を見つめて説明した。私は学生時代からの悪友のもう一人を、ありがたい思いで見つめて手をガッチリと握りあった。


「ジュリアン、お前は第二王子の事をどれだけ知っている?」

急に団長が指を額に当てて、考え考え尋ねて来た。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...