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二度目の砦生活
魔法陣
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団長が尋ねてきたのは、第二王子の事だった。私は団長の話を聞き漏らさまいと顰めた顔を見つめて言った。
「戦神という呼称と、金の髪に赤い目の美丈夫としか存じません。」
団長は顎の下で指を組むと、記憶を引っ張り出す様に前を見つめた。
「だったら私の方が多少詳しいかもしれない。戦神と呼ばれているのは、王子が戦場に現れると負け知らずだからだ。優れた剣の使い手で有り、また魔法の使い手でもある。そして妙な話だが、王子には魔の加護が無いという噂なのだ。
魔神信仰の夜の国の王子に魔の加護が無いというのもおかしな話なのだが、何か裏事情が有るかもしれない。加護が無いのにも関わらず強いというのが、どれだけの事を示すのか…。もし王子に魔の加護が無ければ、白の魔法は効かない。シンも王子から逃れるのは難しくなるという事にもなる…。
心して行け。そして必ず戻れ。…シンを連れてな。」
「御意。生きて必ず戻ります。」
我々はシンの消えた馬場の隅に集まった。
「いいか、この魔法陣に足を踏み入れたら直接シンの元に辿り着くだろう。そこからはお前の腕一本だ。…幸運を祈る。」
ローディの言葉に、周囲に集まった多くの顔が強張ったのは、この任務が非常に難しい事を皆が感じているからだろう。私は不敵な笑みを浮かべるとローディに言った。
「ローディ、私の二つ名を知らないのか?久しぶりにあの名を語れるかと思うと妙に心浮き立つ。大いに暴れて来よう。後は任せた。…合図は有明の月だ。」
私は息をゆっくり吐くと、魔法陣の中に足を踏み入れた。
魔法陣はキラキラと揺らめくと、ゆっくりと私を包み込んでいった。
「…副団長、筆頭参謀の二つ名とはどの様なものなのですか?」
黙ってジュリアンの消えて行った魔法陣の痕跡を見つめる我々の沈黙を破ったのは、カーク副弓隊長だった。
「…クク。ジュリアンは今は落ち着いたものだが、若い頃は戦闘狂と言われるほどの剣豪だったのだ。しかも気性が荒くてな。他人を寄せ付けないのは相変わらずだが、最近は随分柔らかくなった。シンのお陰だな。
そして、あいつの二つ名はシルバーホークだ。鷹の様に鋭い剣筋を持っていて、何処から刃が出るか見えなかった。剣筋の鋭さで言えば、一、二を争うだろう。
…私はあいつが必ずシンを連れて無事に戻ってくる事を信じている。過去のジュリアン以上に今の方が強いだろう。シンが側にいるからな。」
我々は物音ひとつしない闇の中、微かにまだ煌めいている魔法陣の残滓を黙って見つめていた。
「戦神という呼称と、金の髪に赤い目の美丈夫としか存じません。」
団長は顎の下で指を組むと、記憶を引っ張り出す様に前を見つめた。
「だったら私の方が多少詳しいかもしれない。戦神と呼ばれているのは、王子が戦場に現れると負け知らずだからだ。優れた剣の使い手で有り、また魔法の使い手でもある。そして妙な話だが、王子には魔の加護が無いという噂なのだ。
魔神信仰の夜の国の王子に魔の加護が無いというのもおかしな話なのだが、何か裏事情が有るかもしれない。加護が無いのにも関わらず強いというのが、どれだけの事を示すのか…。もし王子に魔の加護が無ければ、白の魔法は効かない。シンも王子から逃れるのは難しくなるという事にもなる…。
心して行け。そして必ず戻れ。…シンを連れてな。」
「御意。生きて必ず戻ります。」
我々はシンの消えた馬場の隅に集まった。
「いいか、この魔法陣に足を踏み入れたら直接シンの元に辿り着くだろう。そこからはお前の腕一本だ。…幸運を祈る。」
ローディの言葉に、周囲に集まった多くの顔が強張ったのは、この任務が非常に難しい事を皆が感じているからだろう。私は不敵な笑みを浮かべるとローディに言った。
「ローディ、私の二つ名を知らないのか?久しぶりにあの名を語れるかと思うと妙に心浮き立つ。大いに暴れて来よう。後は任せた。…合図は有明の月だ。」
私は息をゆっくり吐くと、魔法陣の中に足を踏み入れた。
魔法陣はキラキラと揺らめくと、ゆっくりと私を包み込んでいった。
「…副団長、筆頭参謀の二つ名とはどの様なものなのですか?」
黙ってジュリアンの消えて行った魔法陣の痕跡を見つめる我々の沈黙を破ったのは、カーク副弓隊長だった。
「…クク。ジュリアンは今は落ち着いたものだが、若い頃は戦闘狂と言われるほどの剣豪だったのだ。しかも気性が荒くてな。他人を寄せ付けないのは相変わらずだが、最近は随分柔らかくなった。シンのお陰だな。
そして、あいつの二つ名はシルバーホークだ。鷹の様に鋭い剣筋を持っていて、何処から刃が出るか見えなかった。剣筋の鋭さで言えば、一、二を争うだろう。
…私はあいつが必ずシンを連れて無事に戻ってくる事を信じている。過去のジュリアン以上に今の方が強いだろう。シンが側にいるからな。」
我々は物音ひとつしない闇の中、微かにまだ煌めいている魔法陣の残滓を黙って見つめていた。
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