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 どちらにせよ小春はあまり関わり合いたくない。暁たちの忠告通り、はやくここを抜け出そう。
 
「すみません、わたし急いでいるので」
「おや、君はこの紙袋が気にならないのかい」

 男が尋ねた瞬間、場の空気が文字通りがらりと変わった。街路灯の代わりに提灯が通りを朱く照らし、シャッターが閉められた店は木造建築に姿を変えている。まるで時代劇の世界にタイムスリップしたようだ。

「紙袋……?」
 
  突然の環境の変化に驚いてはいたが、小春はなぜか男が手提げている紙袋から目が離せなかった。椿の絵柄がはいっているだけのごく普通の代物なのに。

「そう。これは君のお祖父さんから生前預かったものだ。見覚えはあるかな、朝桐小春さん?」
「ないです。というか、どうして私の名前を……?」

 弾かれたように顔をあげる。

 男は生前と口にした。会ったことはないしこれからも会う予定はないが、存命なのは父方の祖父しかいないと聞いたことがある。母方の祖父とは苗字も違うのになぜ小春のフルネームがわかるのだろう。じっと男の瞳を見つめると、はぐらかすように笑みを浮かべた。

「まあそれはおいおい話すとして。これを受け取ってくれるかい」

 男はそう言って紙袋をずいと押し付ける。反射的に受け取ってしまった小春はその軽さに驚いた。

「何が入ってるんですか?」
「自分の目で確かめてみるといい」

  紙袋を隙間から覗きこむ。ガラスの小瓶と木製のフレームがひとつずつ入っていた。組み合わせも用途も謎だ。

「……ん?奥にも何かある──」

  フレームの影に隠れて気づかなかったが紙袋の底に紙きれが一枚ある。何だろう、と好奇心をくすぐられた小春はその紙に手を伸ばした。目の前の男がほくそ笑んでいるとも知らず。

「結構小さめ……きゃっ!」

  その紙に触れたときだった。まばゆい光が辺りの闇を埋め尽くす。しばらくして閃光が収まったはいいものの目の前がちかちかする。

「契約成立だね」

  何の話だ聞いてない。上機嫌で笑う男を凝視する。何も答えない彼にしびれを切らして、失礼を承知で小春は詰め寄った。

「契約って何ですか?そもそもこの紙袋はいったい──?」
「うん、まずは君のお祖父さんのことから話そうか」

 そちらの方が分かりやすいだろうと男は言い、側にあったベンチに促した。いつからあったのか気になるが尋ねていては話が進まない。スルーすることにした小春は大人しく男に従った。

「ああ、名乗るのを忘れていたね。僕の名は夜取やとり。君の祖父、東雲   明良しののめ あきらの古い知人だ」

 祖父の知人。目の前の彼はどう見積もっても二十代後半くらいにしかみえない。祖父は小春が産まれる前に亡くなっているから、年数を考えるとやはり男も人の姿に化けるあやかしなのだろう。何のあやかしかまでは分からないが。


 
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