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レベッカの事情

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「ところで、コッカス伯爵令嬢」

「レベッカで大丈夫ですわ」

「じゃあ、レベッカ嬢」

「うーん。やることやってる間柄にしては、距離を感じますね。レベッカでお願いします。」
ニッコリと微笑むと、ランバード様は真っ赤になって

「やることやってる?!」と呟いた。

なにこの人、自分が妊娠させたって、みんなに言ったの忘れたのかしら?
まさか、赤ちゃんはコウノトリが運んで来ると思ってるとか?

「ランバード様、赤ちゃんの作り方って…」

「あーみなまで、言うな!もちろん知っている!」と、ますます赤くなっている。
初心なのかしら?ちょっと可愛いと思ってしまった。

「安心しました。で、なんでしょうか?」

「うん?」

「いえ、先程ランバード様が…」

「ランバード様というのもおかしいよな。できれば名前でお願いしたい」

「あ、では。レオナルド様。先程何か言いかけていらっしゃいませんでしたか?」

「あー、そうだった。」
私はすっかり温くなった紅茶に口をつけ、レオナルド様の言葉を待つ。

「実は、街で見かけた時、護衛もつけず1人だったから、貴族のご令嬢とは思わなかったが、結婚を勝手に決めてしまって良かったのだろうか?
婚約者はいないとの事であったが、コッカス伯爵家の事を考えると、益のある家と婚姻を結ぶ事が望まれているのではないか?」
確かに。私も貴族に生まれたからには、その努めとして家のため結婚をするものだと思っていた時もありました。
それが貴族令嬢に生まれた責務といっても間違いはない。
しかし、このままでは、私はきっと一生結婚できない。アノ人がいる限り。

「確かに、レオナルド様が心配なさるのは当然ですが、今回のお話、よくよく考えてみれば、私にとっても好都合なのです。」

「好都合?」
レオナルド様が少し首を傾げた。

「はい。私が王都の学園に通わなかった事も、領地に引きこもっている事も、この歳になって今だに婚約者のこの字も無いことも、ぜーんぶ、私の1番上の兄のアレックスお兄様が原因といいますか。」

「兄上が?」

「はい。私には2人兄がおりますが、2人とも腹違いです。
2人の兄のお母様は2番目の兄、サミュエルお兄様が産まれた後、産後の肥立ちが悪く、徐々に弱ってしまい、その後亡くなりました。
父は良くも悪くも仕事人間で、兄2人にはあまり構う事が出来ず、乳母に任せっきりだったようです。
その時、上の兄は3歳、下の兄は1歳でした。乳母がいても、まだ手のかかる幼子です。母恋しさもあったのでしょう。
それを不憫に思った父は再婚する事にしたのです。それが私の母です。
母は2人の兄を自分の子と思い、育てました。母は男爵家の3女です。そんな裕福ではなかった為か、自分も実の母に育ててもらったからと、乳母の手を借りながら、慣れない育児を必死で頑張っておりました。
母は2人の為にも、子を作るつもりはなかったようですが、父と白い結婚だったわけではありません。その内私が出来ました。
その時、上の兄は6歳、下の兄は4歳でした。母はとても、父と兄に気を使っていましたので、私を自分の子だからと特別視をする事なく、それよりも、あえて私にあまり手をかけないようにしていたように思います。
上の兄たちを傷つけたくなかったのでしょう。私の方が乳母に育てられた気がします。」
私は少し、寂しげに微笑んだ。

「父は私が生まれたからといって変わることはなく、相変わらず仕事人間で、あまり顔を合わせる事はなかったように思います。母は女主人として、屋敷を切り盛りしつつ、3人の子どもを育てました。まぁ、私はあまり母から手をかけてもらえなかった事もあり、その分お兄様達から可愛がっていただきました。
特に1番上のアレックスお兄様からの愛情は、痛い程に…。」
そして、私は今までを振り返り遠い目となりながら、話を続けた。

「まぁ、アレックスお兄様はいわゆる『シスコン』と言われる部類の人間です。溺愛?執着?行き過ぎた兄妹愛と言えばよろしいのですかね。
お兄様は、私に来た縁談は全て断ってきました。建前は、私には幸せな結婚をしてほしい。政略結婚など家の為に結婚をさせる事はしない…と。自分が努力をして、他の家の支援を受けなくても自領を跡取りとして発展させれば良いのだと。」

「それだけ聞けば、良い兄上のようだが…」
レオナルド様は戸惑うように言葉にします。
そうですよね?それだけ聞けば、妹思いの優しい兄です。

「そうですね。確かに建前はそうです。でも、本音は…まだ他人のレオナルド様には言うのも憚られますが…
自分以外の男が私に触れる事は許されないのだそうです。」

「えっ?それは、言わゆる…」
レオナルド様はもしかしたら、最悪な想像をしているかもしれませんね。
もちろん、私の純潔がお兄様に奪われているという事ではない。そこははっきり否定しませんとね。

「あ、勘違いなさらないで下さいませ。お兄様にも理性があります。もちろん、私も家族もそれは全力で回避します。今のところ、その危険を感じる事はありませんが…独占欲はあるようで…」

「独占欲…」
とレオナルド様は呟く。

「ええ。とにかく私には自分だけが甘やかす存在でいたいようなのです。学園に行くべき年齢になっても、
『学園に行くなんて、とんでもない。自分が領地にいるのに、なぜベッキーが王都にいかなければいけないんだい?それに、王都のタウンハウスにはサミュエルがいるじゃないか。
サミュエルと一緒に居たいとか言うんじゃないだろうね?
それに、学園には沢山男がいるんだよ。そんな所に私の可愛いベッキーが通うなんて…そんな事は堪えられない。
ベッキーに1週間以上も会えないなんて、私に死ねと言ってるのかな?
私のベッキーはそんな酷い事を言う子だった?
それとも、もうお兄様を嫌いになってしまったのかな?それなら、やっぱり私は死ななきゃならないね?』
と言って、私が学園に行く事を全力で阻止しました。
あ、ちなみにアレックスお兄様はお父様の補佐で領地を中心に生活しております。もちろん、社交を兼ねて王都に来ることはありますが、基本的に私と離れて居れる期間は1週間が限界のようです。
サミュエルお兄様は学園卒業後、お医者様になる為、医学部のある学校へ進学しておりますので、タウンハウスで暮らしておりますの。」
うちの領地までは王都から馬車で2日かかる。
なので、アレックスお兄様は用事があって王都へ滞在する場合も、最長でも3日しか滞在せず、1週間以内には領地へ戻ってくる。私に会うために。
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