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22話

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「何で王太子殿下が?」
と私に尋ねる女将さんに、

「実は……」
とネックレスの一件を話し始めようとして、私はハッとした。

「あ、あの私……持ち合わせが無くて……」
と寝台の横のテーブルに置いてあった私のカバンに手を伸ばして中を探り、ハンカチに包まれたネックレスを取り出した。
私はハンカチを開き、ネックレスを産婆さんに見せながら、

「あの……今、現金は無くて。これを差し上げますので売って下さい。……あまり良い値にはならないかもしれませんが……」
と言う私を遮って、

「あー。お金の心配はいらないよ。殿下が金貨を置いていったんだ。『貰い過ぎです』って返そうとしたら『彼女がここに居たいだけ居させてやって欲しい』って言われちゃって……なんなら、あんたがここに一ヶ月滞在しても問題ないぐらいのお金だよ」
と産婆さんは少し困った様にそう言った。
私は驚いて、

「な、何故王太子殿下が?」
と、つい産婆さんに訊いてしまった。

「さぁ……?そりゃ、私にもわからないよ。でも噂ってのはあてにならないって事かねぇ」

「噂……?」

「あぁ。ほら殿下は冷酷無比だって噂だろ?剣の腕は天下一品らしいが、笑顔も殆ど見せないし。あんな人が国王になったら、この国はどうなっちまうんだろうねって、皆、心配してたのさ。
まぁ……今の国王陛下よりマシかもしれないがねぇ……おっと、誰かに聞かれたら不敬罪で捕まっちまう。くわばら、くわばら」
そう言った産婆さんは、私に赤ちゃんを抱かせると、

「だから、あんたは心配せずゆっくり休んだら良い。家に帰るのはそれからだって遅くないよ」
と微笑んで赤ちゃんの頭を軽く撫でた。

黙って私達のやり取りを聞いていた女将さんは、

「殿下とどこで会ったかは追々聞くとして、言葉に甘えてゆっくりさせて貰ったら良いんじゃないかい?あんたが家に帰りたくなったら、また迎えに来るよ」
と私に言うと、赤ちゃんに視線を移して

「まぁ、まぁ、まぁなんて可愛い顔をした赤ん坊だろうね。こりゃ、将来が楽しみだ。名前は何にするんだい?」
と目が流れそうな程笑顔になって私にそう訊いた。

「名前は……アイザックです」
私の頭の中にふと思いついた名前は、母方の祖父の名前だった。

母が亡くなった時、誰よりも私に寄り添ってくれた優しい祖父母。
母が亡くなった半年後に二人共事故で亡くなってしまった。
自分を大切にしてくれていた人が相次いで亡くなった事は、まだ子どもだった私に大きな影響を与えた。あの一年の間に一生分の涙を流した気分だ。
あの時、父親にも継母にも義理の姉にも辛く当たられ、私の味方だった使用人達も全て去って行った。
私は強くなりたくて、もう泣かないと決めたのだ。……たまにそのルールを破ってしまう事はあるが。


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