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11話

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夕食のビーフシチューの支度が出来、王太子殿下を始めとした近衛騎士の方々が食堂の席につく。

本当にこんな粗末な……いや、別に宿屋としては普通だが、王太子殿下がそこに居るというには似つかわしくない場所だとその風景を見ながらつくづく感じていると、

「おい、そこのお下げ髪の女、こっちに来い」
と王太子殿下に手招きされる。今度は『お下げ髪』と指定されている為、間違いなく私の事だと思うが……何故に私?

「これを食べてみろ」
と殿下は私にスプーンを渡す。……どういう事かと私が首を傾げて固まっていると、副団長が、

「毒見なら私が」
と私の手からスプーンを受け取ろうと手を出した。
なるほど。そりゃそうか。毒味ね。
うちのご主人が王太子殿下に毒を盛るなんてある筈ないが、王族が口にする物だ。それを疑っているとか、いないとかいう問題ではなく、『決まり』という事だろうと私は納得した。

「いえ、毒見役だというなら私が」
と言って私はそのまま手に持ったスプーンでシチューを一口食べた。
副団長だって上位貴族。この人に何かあっても宿屋としてはお仕舞だ。……といっても、私は1ミリもご主人を疑っている訳ではない事もここで強く主張したい。

皆が私の様子を見守っている様だ。

「……どうだ?」
と殿下は私に尋ねる。
 
「特に体調に変化はありません。何ならとっても美味しいです」
私がそう言って微笑むと、何故か王太子殿下は目を逸らした。……え?何か気に障る事しました?私。

「そうか、なら頂こう」
と言った殿下は私の手からスプーンを奪うと、それでシチューを掬った。

「ちょっ!ちょっとお待ち下さい!新しいスプーンを用意します!」
と慌てる私に、

「新しいスプーンに毒が塗られている場合もある。これで良い」
と殿下は淡々と答えると、そのままシチューを口に運んだ。

周りの皆が「は?」という様な表情をしている中、殿下は

「美味いな」
と言いながら、二口、三口とシチューを食べ進んだ。

……間接キス?
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