神さまのレシピ

yoyo

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誤解

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   颯を襲ったインフルエンザは、初日こそ熱が高かったが、それ以降は薬も効いて微熱程度まで下がっていた。咳は平熱に戻ってからもしつこく長引き、10日ほど経ち最近やっと落ち着いてきて、大部屋に戻ることも決まった。
   熱で朦朧として湖城の前で、またやらかしてしまった次の日から、湖城は遅い正月休暇で3日間ほど出勤しておらず、メールが来ることもなかった。さすがに呆れられて、嫌われたかなと颯から送ることも躊躇い、朝の楽しみのやりとりがなくなってしまったことにさらに落ち込んだ。休暇明けの湖城は、いつも通り優しく接してくれたけど、今までと何かが違うような違和感があった。特に避けられている訳ではないのに、何故か少し遠くに感じていたのだ。


「颯くん、準備できた?」

   病室に入ってきた湖城に声をかけられる。今までの大部屋に移るために迎えにきてくれたのだ。この個室にはあまり私物は持ってきていなかったけど、調子よくなってからは本を読んで過ごしていたので、数冊の本と洗面用具があった。

「はい。大丈夫です。すぐに戻れると思っていたけど、けっこう長居しちゃいましたね。洗面所がついているので便利だったなぁ」

「そうだね。大部屋より1.5倍くらい料金かかるからね。でも、颯くんの使ってる大部屋も洗面所まですぐだから、けっこう過ごしやすい部屋だと思うよ」


   50mほどしか離れていないので、そんな雑談をしていたら、あっという間に着いてしまう。部屋には変わらない面々が、本を読んだりテレビを見たりして、のんびり過ごしていた。慣れたベットに腰掛けて落ち着くと、就学前くらいの女の子が寄ってきて手を差し出す。手の中には折り紙で作った鶴が乗っかっていた。

「お兄ちゃん、インフルエンザ、もう治った?ユナがうつしちゃったかもしれないって」

「え?」

   ユナと名乗ったその子は、見覚えがあった。確か、正月一緒に残っていた向えの患者さんのお孫さんだ。説明が不十分なユナの様子を見て、祖父が言葉を引き継ぐ。

「正月にここに見舞いに来てくれた後すぐ、インフルエンザで寝込んでいたみたいで。確か君は、あの時ユナと一緒に折り紙を折ってくれてたよな。その後、君もインフルエンザにかかってしまったので、もしかしたらと思ってね」




   正月、同じ病室の患者さんが外泊しているなか、残っていたのは僕と向かえの男性だけで、年明けすぐにその男性の娘さん親子がお見舞いに来ていた。颯がトイレから戻ると、ユナが一人で、家で折ってきたであろう鶴をベット前の机の上に山のように広げて、さらに机のわずかな隙間で新たな鶴を折っているところだった。そんな鶴のお山から、滑り落ちて群れからはぐれてしまっているオレンジ色の1羽を拾い上げて、熱心に折り紙に向き合っているユナに差し出す。

「はい、1羽迷子になっていたよ」
 
   突然知らない男の人に話しかけられたユナは、若干固まりながらも「ありがとう」とオレンジ色の鶴を受け取った。普段なら見ず知らずの人に声をかけることはないが、小さな子と2人の空間で、1人でいる寂しさを紛らわせるように一心に鶴を折っているユナがなんだか微笑ましくて颯の口を動かした。

「鶴、たくさんすごいね。お家で折ってきたの?」

   ユナは、人見知りがあるようで折り紙から視線を上げずに頷く。

「昔は、鶴折れたけど、もう折り方忘れちゃったな」そう呟くと、ユナは折っていた手を止めて意を決したように徐に立ち上がり、颯のベットまで来ると「教えてあげる」と先程手渡したオレンジ色の鶴を差し出した。




   あの時と同じように、ユナの小さな手のひらに乗っかっている鶴を手を受け取る。

「ありがとう。もう、大丈夫。元気になったからこのお部屋にも戻って来れたよ」

   ユナに声をかけて、今貰った鶴をサイドボードの上のオレンジ色の鶴の隣に置く。教えてもらって作った鶴と合わせて3羽が綺麗に並んだ。

「ユナちゃんは、折り紙が上手なんだね。おじいちゃんのベットに飾ってる鶴もユナちゃんが作ったの?」

   湖城がユナの頭を撫でながら、褒めているのを見て胸がチクリと痛む。湖城とユナの様子を見てここ最近、湖城が少し遠くに感じていた理由がわかった気がした。

〝湖城さんに、頭撫でられてないなぁ……〟

   やや距離感の近い湖城から、今まで触れられる機会が多かったけど、それが最近は全くなくなっていた。
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