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熱⑶
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颯の病室を開けると、まさに今、立ち上がろうとしている颯を見つけて急いで近寄る。
「ど、どうした?」
「あ……トイレ……」
「もう、呼んでよ。そんなにフラフラで1人で行けるわけないでしょ。ちょっと待ってて車椅子持ってくる」
もう1度、颯をベットに座らせて急いで病室を出る。颯の様子を見る限りかなり限界に近そうで、今はまだパッドは使っていたかなと考えて急ぐ。病室に戻ると前かがみで固まっている颯いた。
「こっちに移れる?」そう声をかけても「ん……」と声が漏れるだけで体を動かす気配がない。正面から抱きかかえると颯の熱がジンジンと伝わってきて、でもそれだけではなくて密着している太もものあたりがじんわりと温かくなる。
「……っ……ご……めん……なさっ……」
「ん。大丈夫。遅くなってごめんね。体しんどいから、もう力抜いても大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」
「うっ……」
パッドはしていたようで、床が水浸しになることはなかったけど吸収仕切れなかった水分が、ズボンや足を滴りながら小さな水溜りを作っていった。少しするとガクッと力が抜けたように、颯が膝から崩れるように倒れ始めたので、「おっと」と体を引きよ寄せる。
「大丈夫?もう……いい、かな?」
何も返事はなく、かわりに荒く呼吸をしながら嗚咽が聞こえてきた。
「体冷える前に着替えようか。とりあえず、こっちに一回下ろすよ」
颯を車椅子に座らせて、棚から着替えとタオルを素早く出す。ベットを垣間見ると濡れている形跡はなく、着替えさせるとすぐに寝かせることが出来ることに安堵する。その間も颯は俯いて嗚咽まじりの荒い息をしていた。先程よりも熱も上がっているのかもしれなく、早く着替えないと悪化してしてしまう恐れがある。
個室の病室は小さな洗面台がついていて、お湯で濡らしたタオルを絞っていると、ガタッと音が聞こえて振り返ると、先程出したタオルで床に作ってしまった水たまりを拭いている颯の姿が見えた。
「颯くんっ。そこは俺がやるから、まずは着替えよう。このままじゃ症状が悪化しちゃうから」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
「熱高かったし、だいぶ点滴を入れていたし、気にすることないから……ね。一人で着替えられる?手伝った方がいい?」
そう聞くと下を向いたまま大きく首を振る。
「大丈夫……自分ででき……ます」
だけど、その後も一向にしゃがみ込んで動こうとしない颯の腕を引っ張り上げ、少し強引に立たせてズボンに手をかけながら声をかける。
「ズボン下ろすよ。このままじゃ体冷えて、悪化するから」
「や……だいじょ……」
ズボンを抑えて抵抗されるが、普段の10分の1の力も出せておらず、立っていることもしんどいようでふらつく。
「大丈夫じゃないでしょ。こういうときは甘えていいんだよ。それに俺はこれも仕事なんだから颯くんが気に病むことは全くないんだからね!!」
少し強い口調で言うと、湖城の声にびっくりしたよに目を丸くしたかと思うと、その目から小さな子供のようにボロボロと涙が溢れ出してきた。もう抵抗する気持ちはないようで、ズボンを下ろすときも、片足を上げてと声をかけたときも素直に従った。
やや長めの上着から伸びる細い足と、先の方だけチラリとみえる颯の分身にドキリとして手が止まってしまう。患者に対して、まして颯がしんどい状況であるのに、こんな感情を抱くなんて。以前、颯が漏らしかけてた時に、掴んで尿瓶まで導いたこともあったけど、そのときは全く気に留めることはなかったのに、今はその部分に触れてしまうことに動揺を隠せなかった。だけどそんな思いを無理やり追い払って、軽く拭いて何とかズボンを履かせる。
なるべく、颯の方を見ないようにして心を無にしてベットに寝かせる。一刻も早くこの場を一旦離れて、心を落ち着かせたかったけど、布団から伸ばされた手が湖城のナースウエアを捕まえて離さなかった。
「湖城さん……もう少しだけ、ここにいて」
やや朦朧としかけている颯の口から溢れ落ちた言葉に、抗うことはできず脇に置いてあった丸椅子に腰を下ろす。
「寝るまでここにいるから」と声をかけると安心したように目を閉じ、程なく寝息を立て始める。
ナースウエアを掴んでいた颯の手を取ると熱が伝わってきて、前髪をかき分けて額に触れるとさらに手に熱を伝えた。そのまま口元まで指を移動させて唇をなぞる。そこに吸い込まれるように、座っていた椅子から腰を上げて、顔を近づける。あと数センチで触れ合いそうになるところで、ポケットのピッチが鳴った。我に返って慌てて顔を離し、一呼吸おいてピッチに出ると予想通りの呼び出しコールだった。ピッチをしまいながら、変わらず寝息を立てている颯に視線を移すと、今更ながら心臓がうるさく鳴り、気づかないフリをして慌てて病室を出た。
「ど、どうした?」
「あ……トイレ……」
「もう、呼んでよ。そんなにフラフラで1人で行けるわけないでしょ。ちょっと待ってて車椅子持ってくる」
もう1度、颯をベットに座らせて急いで病室を出る。颯の様子を見る限りかなり限界に近そうで、今はまだパッドは使っていたかなと考えて急ぐ。病室に戻ると前かがみで固まっている颯いた。
「こっちに移れる?」そう声をかけても「ん……」と声が漏れるだけで体を動かす気配がない。正面から抱きかかえると颯の熱がジンジンと伝わってきて、でもそれだけではなくて密着している太もものあたりがじんわりと温かくなる。
「……っ……ご……めん……なさっ……」
「ん。大丈夫。遅くなってごめんね。体しんどいから、もう力抜いても大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」
「うっ……」
パッドはしていたようで、床が水浸しになることはなかったけど吸収仕切れなかった水分が、ズボンや足を滴りながら小さな水溜りを作っていった。少しするとガクッと力が抜けたように、颯が膝から崩れるように倒れ始めたので、「おっと」と体を引きよ寄せる。
「大丈夫?もう……いい、かな?」
何も返事はなく、かわりに荒く呼吸をしながら嗚咽が聞こえてきた。
「体冷える前に着替えようか。とりあえず、こっちに一回下ろすよ」
颯を車椅子に座らせて、棚から着替えとタオルを素早く出す。ベットを垣間見ると濡れている形跡はなく、着替えさせるとすぐに寝かせることが出来ることに安堵する。その間も颯は俯いて嗚咽まじりの荒い息をしていた。先程よりも熱も上がっているのかもしれなく、早く着替えないと悪化してしてしまう恐れがある。
個室の病室は小さな洗面台がついていて、お湯で濡らしたタオルを絞っていると、ガタッと音が聞こえて振り返ると、先程出したタオルで床に作ってしまった水たまりを拭いている颯の姿が見えた。
「颯くんっ。そこは俺がやるから、まずは着替えよう。このままじゃ症状が悪化しちゃうから」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
「熱高かったし、だいぶ点滴を入れていたし、気にすることないから……ね。一人で着替えられる?手伝った方がいい?」
そう聞くと下を向いたまま大きく首を振る。
「大丈夫……自分ででき……ます」
だけど、その後も一向にしゃがみ込んで動こうとしない颯の腕を引っ張り上げ、少し強引に立たせてズボンに手をかけながら声をかける。
「ズボン下ろすよ。このままじゃ体冷えて、悪化するから」
「や……だいじょ……」
ズボンを抑えて抵抗されるが、普段の10分の1の力も出せておらず、立っていることもしんどいようでふらつく。
「大丈夫じゃないでしょ。こういうときは甘えていいんだよ。それに俺はこれも仕事なんだから颯くんが気に病むことは全くないんだからね!!」
少し強い口調で言うと、湖城の声にびっくりしたよに目を丸くしたかと思うと、その目から小さな子供のようにボロボロと涙が溢れ出してきた。もう抵抗する気持ちはないようで、ズボンを下ろすときも、片足を上げてと声をかけたときも素直に従った。
やや長めの上着から伸びる細い足と、先の方だけチラリとみえる颯の分身にドキリとして手が止まってしまう。患者に対して、まして颯がしんどい状況であるのに、こんな感情を抱くなんて。以前、颯が漏らしかけてた時に、掴んで尿瓶まで導いたこともあったけど、そのときは全く気に留めることはなかったのに、今はその部分に触れてしまうことに動揺を隠せなかった。だけどそんな思いを無理やり追い払って、軽く拭いて何とかズボンを履かせる。
なるべく、颯の方を見ないようにして心を無にしてベットに寝かせる。一刻も早くこの場を一旦離れて、心を落ち着かせたかったけど、布団から伸ばされた手が湖城のナースウエアを捕まえて離さなかった。
「湖城さん……もう少しだけ、ここにいて」
やや朦朧としかけている颯の口から溢れ落ちた言葉に、抗うことはできず脇に置いてあった丸椅子に腰を下ろす。
「寝るまでここにいるから」と声をかけると安心したように目を閉じ、程なく寝息を立て始める。
ナースウエアを掴んでいた颯の手を取ると熱が伝わってきて、前髪をかき分けて額に触れるとさらに手に熱を伝えた。そのまま口元まで指を移動させて唇をなぞる。そこに吸い込まれるように、座っていた椅子から腰を上げて、顔を近づける。あと数センチで触れ合いそうになるところで、ポケットのピッチが鳴った。我に返って慌てて顔を離し、一呼吸おいてピッチに出ると予想通りの呼び出しコールだった。ピッチをしまいながら、変わらず寝息を立てている颯に視線を移すと、今更ながら心臓がうるさく鳴り、気づかないフリをして慌てて病室を出た。
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