神さまのレシピ

yoyo

文字の大きさ
上 下
31 / 42

クリスマス⑹

しおりを挟む
   借りていた漫画を返す為に、湖城に病室に寄ってもらい、漫画が入った紙袋を渡す。病室はちょうど誰もいなくて気兼ねなく話せる。


「面白かったです。この続きもめちゃくちゃ気になります」

「そうだよね~続きが出たらまた貸すよ。あれ、颯くんスマホ買ったの?」


   サイドテーブルに置かれたスマホに気づいた湖城に聞かれる。もともとのスマホは事故の時壊れてしまい、それから特に連絡取りたい相手もいなくずっと持ってなかった。叔母の涼風から「あっても困らないでしょ」と言われて、クリスマスプレゼントとして買ってもらった。
   以前から颯にとってスマホは、何かを検索したり、誰かに連絡をとるときだけしか使ってなかったから、今まで無くても特に不都合はなかった。だから前のスマホのバックアップもとっていなくて、なんの情報も入っていないスマホは、さらに置きっ放しの状態だ。


「あーはい。涼風さんにクリスマスプレゼントして貰ったんです。でもバックアップも取ってなかったし、連絡したい人もいないからほとんどここに置きっ放しなんですけどね」

「そっか……あ、これ、俺と同じ機種なんだけどカメラ機能が充実してるから色々写真取ってみるのも面白いかもよ」

「そうなんですかっ。このシリーズいいですよね。この小さめの感じが好きで、前の機種と同じシリーズにしてもらったんですよ。写真はほとんど取らないから知らなかったけど、ちょっと写真機能も見てみようかな」

「うん。わからないことあれば教えるよ。じゃあ、これは貰っていくね」


   そう言って湖城が病室から出て行くと、いつもサイドテーブルに置きっ放しになっているスマホを手にとって、カメラのマークをタップしてみた。




   クリスマスイブの夕食は、ローストチキンではなく唐揚げとデザートにクリスマスツリーの絵が描かれたプリンのだった。病院でもクリスマスを意識したメニューになるんだなと思いながら食べてると、湖城がピョコっと病室に顔を出して、病室にいる面々に「今日夜勤で入ります」と挨拶して、同じ病室のおじさんに「こんな日に仕事なんてつてないなー」と揶揄われている。最後に颯のところにも来て声をかけてくれた。
   今日、湖城が夜勤に入ることは以前聞いていて知ってはいた。もし、夜の見回りも湖城なら夜中の12時一緒にツリーを見れるかなと、日中あのクリスマスツリーの写真を撮りに行ってきていた。写真だとあの噂も効かないかもしれないけど、クリスマスになった瞬間に一緒にツリーが見たいと思ってしまった。必ず湖城が来るとは限らないので、運が良ければ一緒に見れる程度の気持ちだ。見回りのことを聞こうとした時、もう一人の夜勤の看護師も挨拶に来て言葉が止まってしまい、そうこうしているうちに、湖城は病室から出ていってしまった。

「聞いちゃったらつまらないか……」と軽くため息混じりに呟く。



   あと30分ほどで日付が変わる頃、読んでいた文庫本を置いてライトを消す。流石にこの時間に大ぴらに起きているのがわかると怒られてしまうので、寝ている態で、湖城が来ることを期待するけど、来たら来たで声をかけられるかとドキドキする。
しばらくするとカタッと病室の扉が開き、人が入ってくる気配がした。だけど、どっちかまだわからない。どうしようかとさっきより心臓が早まる。

   カーテンから軽く覗かれる気配と共に、布団に手を当てられ名前を呼ばれた。今度は、素早く被っていた布団を避けて、湖城と目が合うと「へへっつ」と照れたように笑った。


「具合悪い訳じゃないんだよね?」

「え、あ、はい。大丈夫です。湖城さん、あの……えっと……」

「ん?もしかして、またやっちゃった?」

   小声で囁かれ在らぬ誤解をされて、否定の声が大きくなってしまった。


「しーっ!ごめん、ごめん。でも、こんな時間に起きてるなんて、眠れない?」

   病院の消灯は早い。12時前後でももう殆どの患者が寝ている時間だ。


「いや……湖城さん、今5分だけ大丈夫ですか?」

「うん。それくらいなら。オレもちょっと話したいと思ってたし」


   体を起こしてサイドテーブルに置いてあったスマホを手にとる。写真ホルダを開き、いくつか撮ったうちの一番綺麗に写ってツリーの写真を画面にでして、湖城に見せた。


「これって、ここのツリー?」

「はい、直接は見に行けないけど、写真なら一緒に見れるかなと思って……」

   驚いていた湖城の顔が急に「ははっ」と表情を崩して笑うと、ズボンのポケットからスマホを取り出し操作し始める。手が止まると今度は颯に向けて画面を見せる。そこには先程、颯のスマホ画面にあったのと同じツリーが写し出されていた。


「これ……」

「颯くん、同じこと考えてるんだもん。びっくりしたよ。もしも起きてたら、一緒に見れるかなと思って」

   なにこれ。めちゃくちゃ嬉しい。静かな病室にドキドキの心臓が鳴り止まなくてうるさい。こんなにうるさかったら、みんなを起こしてしまうんじゃないかと思ったけど、そんなことにはならず、たぶん湖城にも聞こえていない。

「一緒に見たほうがいいんだよね」と2人で1つの写真が見れるように湖城はベッド脇に腰を下ろし、颯に密着する形になる。画面の上に表示されている時計が丁度、12時になるのが見える。

「メリークリスマス」隣でそう言われた気がしたけど、もういっぱい、いっぱいで湖城の方を向くことができなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...