神さまのレシピ

yoyo

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熱⑴

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   スマホ片手に朝の出勤準備をしながら、メッセージを送ると程なくして親指を立てている猫のスタンプが返ってきた。表情を緩ませながら、ダウンジャケットのポケットにスマホを入れる。部屋を出ると強い風が吹き付け、雪が舞い上がっていた。看護師寮と病院は目と鼻の先であり、通勤時間は5分とかからないが冬場はそれでも遠く感じてしまう。
   クリスマスになった瞬間に、颯と一緒にツリーの写真を見たあと、クリスマスプレゼントと言って連絡先を渡していた。颯は以前のスマホのバックアップを取っていなくて、連絡先も入っていないと話していたから、自分の情報でも入っていたらスマホの存在価値が少しでもあがるのではないかと思った。「連絡先の1号にして」と軽口を叩いたけど、後から叔母の涼風の番号は入ってるよなと気づいて、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。

   連絡先を渡すことは、別に深い意味はないと自分自身に言い聞かせていたけど、本当にそうなんだろうか。元カノや吉志に言われてから、湖城にとって颯はどういう存在なのかと考えていた。恋愛感情は置いておいても、他の患者とは違い特別な存在なのは、もう認めざるを得ないのはわかっていた。


   年末年始は状態の良い入院患者は外泊が許可され、病院全体の3分の1ほどが外泊する。颯も外泊許可が出ていたけど、涼風の妊娠がわかり、悪阻がけっこう重くて体調が悪いのに迷惑はかけられないからと言い、ギリギリまで帰ってくるように説得されていたけど、結局病院で年を越すことになった。湖城自身も母親が再婚してから、母親の新しいパートナーとの距離感がうまく掴めなくて、泊まりで帰省することはなくなっていた。それに年末年始は休みを取りたいスタッフが多くなるので、特にやることも会う彼女もいなくなった湖城はビッシリ仕事を入れていた。颯の病室も患者のほとんどが外泊しており、颯と先日入院したばかりの50代の男性だけだった。   
   休日中は、医師もリハビリスタッフも基本は休みになるため、平日よりも仕事は減りその分颯の病室に立ち寄ることもまた増えた。それでも同じ轍を踏まないように気を配っていたから、スマホでのメッセージのやり取りは、そういう面でも非常に重宝した。朝、メッセージでやり取りするようになったのも、年明けすぐに颯から「あけましておめでとうございます」とメッセージがきっかけだった。
   三が日が開けて、外泊していた患者が戻り診療も再開されるとまた、今までの日常が戻ってきたけど、朝のやり取りはどちらともなく続いていた。
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