神さまのレシピ

yoyo

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クリスマス⑴

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   病室の扉付近を誰かが通るたび、誰かが病室に入ってくるたび視線を向けてしまう。湖城から、仕事が忙しくなって昼休憩の時来れなくなったと言われて1週間ほど経っていた。以前の状態に戻っただけだったし、湖城の昼休憩は1時間ほどだったけど、今までどうやって時間を潰していたかわからなくなるほど1日が長く感じるようになっていた。それに最近はちょこちょこ顔を出すこともメッキリ減ったように感じてしまう。
   湖城に借りた漫画本を読みながらも、頭の中は漫画の内容よりも湖城のことでいっぱいだった。松葉杖でも歩行が可能となり、車椅子を卒業すると念願だったトイレ介助もなくなり、今ではトイレに行くときも呼ぶ必要がなくなったため、ナースコールで湖城を呼び出す機会もほとんどなくなって、話すどころか会う機会も減っていた。
   また、戸口に人影が見えて顔を向けると病室に入ってきた吉志と目があった。


「郁島くん、調子はどう?」

「はい、変わりないです。吉志先生どうしたんですか?今日、診察じゃないですよね?」


   吉志とは、月に1回ほどの診察が続いていた。診察といっても、颯の病室に来て雑談をしているだけだった。診察がある日は朝の検温の時に今日の予定として教えられていたが、今日はそんな予定は入っていなかった筈だ。


「こっちの病棟まで用事があって、ついでだからちょっと寄ってみた。車椅子卒業して、今は松葉杖になったんだよな」

「そうなんです。自分で移動できるようになって、嬉しいです」

「それは良かった。トイレ介助からも解放されたしな。でも、この間転倒してるんだから、調子悪いときとか、切迫詰まっているときは遠慮せずに湖城を呼べよ。転びそうになったら、いつでも湖城を下敷きにしちゃっていいから」


   そんな吉志の軽口を聞いてると転倒時、湖城に抱きかかえられたことを思い出して、顔が熱くなる。顔をあげたらバレそうで、俯いていると「具合悪い?」と勘違いされて、すかさず大きく首を振って話題を変えるべく、言葉を探す。


「この時期って、皆さん忙しいんですか?寒くなると体調を崩す人が多くなるとか」

「ん~?まあ、科によって違うけど……俺の場合は季節はあまり関係ないかな。外来がある精神科はまた別だろうけど。どうして?」

「えっ……あーえっとー湖城さんが、忙しくなるって言ってたので……」

「……そうだな。12月は交通事故が多くなるから、外科は忙しくなるかもな……湖城はだいぶ郁島くんの病室に入り浸ってたみたいだから、寂しい?」

「別に、寂しいとかじゃないですっ。あの人、本当にちょこちょこ来てたので、なんていうか……変な感じなだけで……」


   結局また湖城の話に戻ってきて、しどろもどろになってしまう。チラッと吉志の顔を伺うとクスクス笑っていて、全て見透かされている感じがする。吉志はその後、長居することなく「来週、改めて話に来るよ」と病室を出て行った。
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