ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第9話

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「これは?」

「壬生浪士組副長からの手紙だ。これを大和屋へ渡せ」

「え」

「……おめぇが単体で大和屋行って何かできんのかよ」

「……っ」



悔しいけど、歳三の言う通りだった。



「だから、ほら、もってけ」

「……うん」



私ひとりじゃ何も、できない。



「あー……あのな、璃桜」



くるりと文机のほうに身体を戻しながら、歳三は言う。



「……おめぇが、何かしてぇのは、わかってっから。俺が言いてぇのは、勝手にすんなってことだけだ」

「……え」

「………あー、だから、」



鬼の副長は、言い淀んで。



「………俺のことくらい、頼れ」



その頬が一刷毛朱に染まっている。

それを見て、思う。

誰が、鬼の副長よ。

鬼だったならば、こんなにも。この人は照れることは、無いわ。



「……ん」

「……行ってこい」

「ありがと」



何故だかこちらまで気恥ずかしくなって、慌てて手紙を受け取り、部屋を出た。

まだ少しだけ高鳴る胸に、ぎゅっと手紙を押し付ける。

駄目。
ときめいては、駄目なんだから。

外に出たら、ざぁ、と吹き抜ける風が、髪をさらっていく。

向かい風に、目を細めながら歩いていたら、為坊に会った。



「璃桜ちゃん、どこ行くん」

「ちょっと、町まで」

「ほんなら、それが終わったら、遊んでくれる?」



為坊のきらきらした瞳に、とても用事があるなんて、言えなくて。

如何しようと、思案していたら。



「あ!」

「璃桜、為坊」



ちょうどいいところに、ぶらりと現れたのは、そうちゃん。



「私は用事があって、本当は為坊と一緒に遊びたいんだけど、ちょっと難しいの。だから、為坊、そうちゃんと遊んでおいで」

「うん、わかった!」

「何、璃桜どこ行くの」



そうちゃんが怪訝な顔をしたけれど、曖昧に微笑んで歩き出す。

すると。



「為坊、ついてこうか」

「賛成!」



後ろからこそこそと話声がする。



「ちょっと」



振り向いて牽制すれば、そこにはにまにま笑ったそうちゃんと、ただ単純にお出かけできると知って、笑顔の為坊。



「何でついてくるの」

「璃桜が教えてくれないから」



当たり前のことのように言いきったそうちゃんは、にこっとさらに笑みを深めて。



「町まで行くんでしょ? ついてっても、邪魔しなければ、問題ないじゃん」

「もー」



言い出したら聞かないそうちゃんのことだ。
理由を聞くまで帰ってくれないだろう。



「仕方ないから、為坊、お母さまに外出してもいいか聞いておいで」

「はい!!」



とりあえず、難しい大人の事情は、為坊の耳に入らないように、理由をつけて私たちから離れさせた。



「で?」



全部わかってる表情で、そうちゃんが尋ねてくる。



「……大和屋に、金策に行くの」

「え?」



理由をきいて、眉を顰める。

それもそうだ、一小姓である私がこんなことをする必要は、何処にもないのだから。



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