83 / 139
第4章 歴史と現実
第8話
しおりを挟む「おい」
「……ひゃ」
「……おめぇ、こんなところで何してやがる」
鬼の副長様が私の前に立ちはだかっていた。
今聞こえてしまうのはまずい。
「……ふ、ふくちょーがお茶を運ぶように言ったんじゃ、ないですかぁ」
移動しよう! と必死に目でアピールする。
ああ、こんなことになるなら、平成でもっとアイコンタクトの練習をしてくればよかったわ。
そんなバカなことを思いながらも、私の思いを汲み取ってくれた鬼の副長様は、ふっと鼻で笑って、私の腕を掴んだ。
「あー、そうだったっけかなぁ」
「……っ」
ああ、もうこれ、終わった。
歳三にばれるなんて。
ぐいと引かれる腕をそのままに、愁傷についていけば、歳三の足が止まったのは、自室。
たんっ、と音を立ててしまった襖に、陳腐な言い訳が頭をめぐる。
「……で」
「………!」
ぐいとあげられる頤。
漆黒に、視線を絡めとられる。
「おめぇは勝手に何してんだぁ?」
「………いや、えへへ」
笑って誤魔化そうとするも、副長様にそんな笑みが通じるはずもなく。
「璃桜」
低い声に名を呼ばれ、口が言い訳がましく言葉を落とした。
「……大和屋に、お金を出してくれるようにお願いしようと思って」
「……は?」
「いや、……芹沢さんと最近、大和屋が、仲が悪いって、その……町できいて!」
「ほお」
「………だから、芹沢さんが何かする前に、何かしようと……っ!?」
慌てて言い訳するも、すべてお見通しな副長様は、私の頬をぐにゅっと片手でつまみ。
「まーた何か隠してするつもりだったろう。何度言ったらわかんだよ、おい、この口はよ」
「……ごめんにゃひゃい……」
心配してくれているのが、ひしひしと伝わってくるから、私も強気にはなれなくて。
「はー、ったく、仕事増やしやがってよ」
「………っ」
ああ、また。
また、邪魔をしてしまったの?
空回り、してしまったの?
しゅんとしてしまったのが通じたのだろうか、面倒くさそうに頭を搔き、ふーっとため息を零す歳三。
「……待ってろ」
「……え」
「いいから」
そう言って私の頬から手を放し、文机に向かったと思ったら、何かしたため始めた。
少しの時間が経って、振り向いた歳三の手には、一通の手紙。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。


アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる