ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第8話

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「おい」

「……ひゃ」

「……おめぇ、こんなところで何してやがる」



鬼の副長様が私の前に立ちはだかっていた。

今聞こえてしまうのはまずい。



「……ふ、ふくちょーがお茶を運ぶように言ったんじゃ、ないですかぁ」



移動しよう! と必死に目でアピールする。

ああ、こんなことになるなら、平成でもっとアイコンタクトの練習をしてくればよかったわ。

そんなバカなことを思いながらも、私の思いを汲み取ってくれた鬼の副長様は、ふっと鼻で笑って、私の腕を掴んだ。



「あー、そうだったっけかなぁ」

「……っ」



ああ、もうこれ、終わった。
歳三にばれるなんて。

ぐいと引かれる腕をそのままに、愁傷についていけば、歳三の足が止まったのは、自室。

たんっ、と音を立ててしまった襖に、陳腐な言い訳が頭をめぐる。



「……で」

「………!」



ぐいとあげられる頤。
漆黒に、視線を絡めとられる。



「おめぇは勝手に何してんだぁ?」

「………いや、えへへ」



笑って誤魔化そうとするも、副長様にそんな笑みが通じるはずもなく。



「璃桜」



低い声に名を呼ばれ、口が言い訳がましく言葉を落とした。



「……大和屋に、お金を出してくれるようにお願いしようと思って」

「……は?」

「いや、……芹沢さんと最近、大和屋が、仲が悪いって、その……町できいて!」

「ほお」

「………だから、芹沢さんが何かする前に、何かしようと……っ!?」



慌てて言い訳するも、すべてお見通しな副長様は、私の頬をぐにゅっと片手でつまみ。



「まーた何か隠してするつもりだったろう。何度言ったらわかんだよ、おい、この口はよ」

「……ごめんにゃひゃい……」



心配してくれているのが、ひしひしと伝わってくるから、私も強気にはなれなくて。



「はー、ったく、仕事増やしやがってよ」

「………っ」



ああ、また。

また、邪魔をしてしまったの?

空回り、してしまったの?

しゅんとしてしまったのが通じたのだろうか、面倒くさそうに頭を搔き、ふーっとため息を零す歳三。



「……待ってろ」

「……え」

「いいから」



そう言って私の頬から手を放し、文机に向かったと思ったら、何かしたため始めた。

少しの時間が経って、振り向いた歳三の手には、一通の手紙。



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