85 / 139
第4章 歴史と現実
第10話
しおりを挟む「歳三から、手紙を預かってて」
こんなところでも役に立つ、歳三という言葉。
負けた気がするけど、こうなってしまったら、使えるものは使わないとね。
案の定、そうちゃんは納得したようだった。
「土方さんの使いか、璃桜も大変だね」
「うん、」
「でも」
だから、と言葉を続けようとしたのに、かぶせるようにそうちゃんは悪戯っ子のように笑う。
「大和屋だったら余計、為坊がいたほうがいいと思うよ」
「え……?」
「大和屋のご主人は、子どもと美人に弱いから」
「てことで」
その言葉とともに、そうちゃんに腕を掴まれた。
「え……ちょ、そうちゃん……!?」
驚いて抵抗するも、そうちゃんはぐいぐいと力を加えてくる。
「前川邸戻るよ、女物の服に着替えな」
「え、ええええ!?」
引っ張られてしまってはなすすべもなく。
どたばたと前川邸に戻ってきたと思ったら、綺麗な模様の小袖とかわいらしい帯と一緒に、部屋に閉じ込められてしまった。
ここで、問題が一つ。
「そうちゃん……?」
「何―?」
「……私、着物の着方わかんない」
そうなのだ。
袴は着れる。散々平成できていたというのもあるが、ちょっと雑でも、ばれないから。
でも、着物となると、綺麗に着付けなくてはならない。
そんなの私ひとりでできる気がしない。
ところが。
外にいるそうちゃんに助けを求めるも、私よりも狼狽えた声で返されてしまった。
「え、何、着せてほしいってことなの」
「……うん」
「俺、女の人の着物なんてわかんないよ」
「ええ!? じゃあ何でこの小袖持ってんのよ!」
「それは、………っ」
あれ?
もっと反論してくると思ったのに。全然反論が来ない。
何故かはわからないが、そわそわした気配が伝わってきて。
「……これ、誰のよ?」
「誰でもいいだろ!!」
半ば相手はどんな人か分かっていたが、聞き返せば、半ギレで返された。
そうちゃんにも、好いた人がいるんだなぁ、なんて思う。
そりゃ、そうだよね。
沖田総司だって、人間だものね。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。


『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる