ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
85 / 139
第4章 歴史と現実

第10話

しおりを挟む



「歳三から、手紙を預かってて」



こんなところでも役に立つ、歳三という言葉。

負けた気がするけど、こうなってしまったら、使えるものは使わないとね。

案の定、そうちゃんは納得したようだった。



「土方さんの使いか、璃桜も大変だね」

「うん、」

「でも」



だから、と言葉を続けようとしたのに、かぶせるようにそうちゃんは悪戯っ子のように笑う。



「大和屋だったら余計、為坊がいたほうがいいと思うよ」

「え……?」

「大和屋のご主人は、子どもと美人に弱いから」

「てことで」



その言葉とともに、そうちゃんに腕を掴まれた。



「え……ちょ、そうちゃん……!?」



驚いて抵抗するも、そうちゃんはぐいぐいと力を加えてくる。



「前川邸戻るよ、女物の服に着替えな」

「え、ええええ!?」



引っ張られてしまってはなすすべもなく。

どたばたと前川邸に戻ってきたと思ったら、綺麗な模様の小袖とかわいらしい帯と一緒に、部屋に閉じ込められてしまった。

ここで、問題が一つ。



「そうちゃん……?」

「何―?」

「……私、着物の着方わかんない」



そうなのだ。

袴は着れる。散々平成できていたというのもあるが、ちょっと雑でも、ばれないから。

でも、着物となると、綺麗に着付けなくてはならない。

そんなの私ひとりでできる気がしない。


ところが。
外にいるそうちゃんに助けを求めるも、私よりも狼狽えた声で返されてしまった。



「え、何、着せてほしいってことなの」

「……うん」

「俺、女の人の着物なんてわかんないよ」

「ええ!? じゃあ何でこの小袖持ってんのよ!」

「それは、………っ」



あれ?
もっと反論してくると思ったのに。全然反論が来ない。

何故かはわからないが、そわそわした気配が伝わってきて。



「……これ、誰のよ?」

「誰でもいいだろ!!」



半ば相手はどんな人か分かっていたが、聞き返せば、半ギレで返された。

そうちゃんにも、好いた人がいるんだなぁ、なんて思う。

そりゃ、そうだよね。
沖田総司だって、人間だものね。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...