アナザー・リバース ~未来への逆襲~

峪房四季

文字の大きさ
66 / 136
Scene7 被告:桜美七緒

scene7-3 危険な横槍 前編

しおりを挟む
 
『どうやら閣下は身体への苦痛より精神への苦痛で責める方針のご様子です。なかなか効果的らしく黒髪のデーヴァは目に見えて狼狽え初めております』

 いくつものマルチモニターが並び、その光だけに照らされた薄暗い室内にルーツィアの声が響く。

「なるほど、安易に痛みを与えて意見を変えさせるのではなく、論破により自己肯定感を切り崩すというのは知的で私好みだ。〝常に考えろ〟……教えた事を素直に実行する教え子というのは愛着が湧く」

 スピーカーから聞こえて来るルーツィアの報告にコーヒーを啜りつつほくそ笑む良善。
 ここは彼の自室兼研究室。
 談話室から引き上げたあと、良善はすぐにここへ戻り早速雑務処理に取り掛かっていたのだが、他人を責めるなど初めてであろう司ではあの賢しい小娘に言い負かされしないかと思い、密かにルーツィアに状況の監視と場合によっては司のサポートを命じておいたのだが、どうやら杞憂で済んだ様だ。

『隣で紗々羅がつまらなそうにしておりますよ。私も若干手緩い気が否めませんが、これはこれで楽しめております。先に堕ちた仲間や上官の醜態も見せ付けて心を乱させてから話し出すという運びもセンスを感じる。やはりあのお方の先人といったところでしょうか』

 体内にナノマシンを保有するということは、その身体を一種にコンピュータにする感覚に近い。
 そのため専用のデバイスを用いれば、周りには口を閉じて無言に見えても頭の中で想像した言葉や目で見た物を外部の機器にリンクさせることが出来る。
 今のルーツィアは七緒の拘束室で暇潰しに司の尋問を眺めているフリをしつつ、良善に逐一情報を伝えていたのだ。

「ははッ、しかしあれが二人になるのは避けたいね。きっと心労でどちらか片方を鑑賞用に標本化したくなってしまうよ。さて、ではあとは…………ん?」

 ルーツィアからの報告を聞きつつも、実際にはちゃんと今後の拠点に関してや、こちらに向かっている途中であるらしい首領の現在時間のチェックなど、マルチタスクを進めていた良善が一つのモニターに目を奪われて口を閉ざす。

『ん? 如何なされましたか?』

「…………いや、気にするな。引き続き司をサポートしろ。今後の事を考えれば多少残虐な行為にも慣れさせておきたい。上手く促してくれ」

Jawohl承知しました

 一方的に話を終わらせようとする良善。
 しかし、忠臣であるルーツィアは何ら引き摺ることはなくすぐに通信を終了した。
 そして、静かになった室内で良善は違和感を感じた一つのモニターに釘付けになる。
 そこに表示されていたのは……司の年表。

 未来から持参したそのデータの一番上は誕生日が記され、以降司の軌跡が順に羅列されている。
 そして、その内容は元々は司が当初は醜悪な犯罪者になっていく過程が記されていたが〝ロータス〟が過去改変を起こしたことで内容が全て書き換わり、見ているだけでも辛くなる様な悲しく孤独な内容になっていた。

 ただ、その書き換えは本来誰にも認識出来るモノではない。
 司が天涯孤独の身として生きることになったということは、もうその時点で司の犯罪者へ進むという記録はこの世から完全に消失していることになる。

 当然、存在しない記録を覚えていられる者がいる筈も無い。
 しかし、記録がどの様にして書き換わったのか、その要因を知っていれば記憶が過程を繋ぐことで元々あった前の記憶を覚えていられる。

 書き換わった司の記録。
 良善はその要因を知っているため、今目の前にある文字の羅列が更新された記録であると認識出来る。
 だが……。

「……ッ………くッ!?」

 おかしい。
 そのモニターの表示された文字の羅列に、良善は
 椅子の背もたれから身体を浮かせ、机に肘を立てて手を口元に添えて血走るほどに目を見開き、モニターの文字を凝視する。

 その姿は明らかに普通ではない。
 死んでいるのではないかと思うほどに微動だにせず、己の生命活動の大半を犠牲にして良善はモニターを睨み付ける。
 そんな視線の先にあった文字とは……。



 〝御縁司、保護施設××園退所。同日、鷺峰さぎみねまどかと出会い鷺峰家へ居候。翌年、恋仲となり交際を開始するも鷺峰家が経営する喫茶店に強盗が侵入し、店主:鷺峰いさお・妻:鷺峰香澄かすみ・娘:鷺峰円……死去。御縁司・強盗を撲殺後自殺未遂の場に居合わせた良善正志の手引きにより〝Answers,Twelve〟へ加入〟



「間違って……いない? 私は、? ……いや待て! 違うッ! こ、これは……絶対に…………」

 良善はすぐに自分の頬を殴り意識を集中した。
 違う。自分は司とこの様な出会い方はしていない……はずだ。
 しかし、ならばどの様にして出会った?
 否定はするが、その本当の出会い方が良善には思い出せなかった。

「くそ! あいつめ!! 〝砂時計タイムグラス〟を弄ったな!? ま、間違いない……そうだ。そのせい……で……そ、……!」

 これまで常に論理的に自信を持って語っていた良善らしからぬ不確定さで、まるで自分に言い聞かせる様に呟き続けている。
 だが、どんなに思い出そうとしても、記憶の中にはがくっきりと浮かんでいた。

 あまりにも鮮明なたった数日前の記憶。
 だが、良善はその記憶に辛うじて指先に引っ掛ける程度の違和感を感じることが出来た。
 今の良善は、その微かな引っ掛かりを手放すまいと必死に歯を食い縛っている。

「違う……。わ、私は……確か廊下、で……彼と…………どこだ? でだ?」

 その顔は強い意志を宿した表情をしていたが、人によっては〝自信なさげ〟と捉える人もいるかも知れないひどく曖昧な顔をしていた。
 だが、その時……。


 ――ヴォンッ!


「――ッッ!?」

 机に突っ伏しかけながら脂汗すら滲ませてモニターを睨んでいた良善。
 するとその視線の先で、突如何の操作もしていないのにモニターの画面が暗転して一度ノイズが走ったかと思えば、いきなり巨大な砂時計をバックに四~五人は座れそうな大きなソファーに寝転ぶ一人の青年が映し出された。


『あひゃひゃひゃひゃッッ!!! 流石だぜ〝先生〟! まさかとはな!」


 こんなにも不快に感じる人の笑い声がこの世に存在したのか?
 そして声だけでなく、茶色を帯びた黒髪、丸縁のサングラス、白いシャツ、黒いジーンズ。
 一見どれも普通に日常で目にすることくらいあるだろう物のはずなのに、その青年と関連付けると異様なほどに全てが癇に障る。

 まさに存在そのものが不快。
 そんな青年が、モニター前の良善へニヤリと笑みを向けていた…………。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

処理中です...