無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

文字の大きさ
39 / 42
国境へ

14 このまま進む事になりました

しおりを挟む
 ゆるゆると進む馬車から、国境の街ブルンデンの街門が見えてきた。
 そんな時に、前の馬車の歩みが止まった。
 私が不思議がっていると、アビィが説明してくれた。

「街門の魔道具に、引っかかったみたいだな」
「魔道具ですか?」
「そう、簡易門にも設置してあったんだけど、人を殺傷してなければ大丈夫。ただ問題点もあって、医者や騎士、兵士達が引っかかるんだよな」

 仕事上、仕方のない方達なのでしょう。

「予め門に報告しておくと、スムーズに進むから特段困らないんだけどな。ほら、すぐに動き出した」

 アビィの言う通り、馬車の列はすぐに動き始めた。
 そのままゆるゆると進み、私は何事もなく街門を通った。
 その際に魔道具を見ると、左右と上の三箇所に球体の魔道具が半分埋められた形であった。

 街門を入って少しした大きな広場では、馬車から降りた人が何やら手渡している。

「本来、さっきの村とここを繋ぐ定期馬車があるんだ。その分を乗せてもらった馬車に払ってる。勿論俺らも払うからな」

 私が操縦する馬車は、アビィの家に向かう事になっていた。
 アビィがそんな風に話していると、突然後ろが騒がしくなった。

「荒くれ者が捕まったって」

 後ろの馬車の護衛の人が、またこちらに来て教えてくれた。
 アビィと護衛の人が移動しながら話していると、突然会話を遮る様に上から声が降ってきた。

「坊ちゃ~ん。良かった、中々見つからないからヒヤヒヤしました」
「こら、馬が驚くだろう!」

 しゅたっと華麗に着地した男は、馭者席に上る際の足がかりに立ちアビィに話かけた。
 どちらかというと、馬より後ろに乗っていた四人の方が驚いていた。
 サッと馬車を開け、荷物を放り込んでいたから。

「申し訳ない。忙しい中坊ちゃんの荷物持って来たんですよ。褒めて下さいよ」
「俺は一旦家に戻るつもりだったんだがな」

「別にそれでもいいですけど、オーリア国へ行くのが一月後とかになりそうですよ」
「それ、どうゆう事?」

 後ろから、ローラが会話に割り込んで来た。

「坊ちゃん?」
「村で知り合った友達。皆オーリア国へ向かうから、知ってる事情を全て話してくれ」

「分かりました。実は今、国境門に水晶が設置されておりません。何やら最終点検とか言い出して、派遣されて来た騎士が、王宮の魔術師に確認させているとか。このどさくさに紛れて、溜まっていた人々を一気に流しているんです。ここ数日飽和状態でしたから」

「街長の説得に、応じたんじゃないのかよ~」
「混乱を避ける為の方策を行う旨の了承はされたんですか、騎士はその方法を知らないんで。まぁ、上手く方便に乗せられた方が悪いんですよ」

 そう言って、にこやかに男は笑った。

「で、騎士が言う『本番』とやらが、どれだけ迷惑な代物になるか予想できない訳でして。『予行』のペースでもかなり迷惑でしたから。この街の経済を遅延させ、王族不信を招きたいとしか思えないですよ。騎士は王太子の側近ですし」

「王太子の側近?」

 私は、知らず小さく呟いていた。

「そうなんですよ。王太子直々の密命とかで。どっかの公爵の私兵も来てるんですが、喧嘩売ってるだろうって態度でムカつくんですよね」

「なんで、密命を知ってるんだか……」

「やだなぁ坊ちゃん。人徳ですよ、人徳。そいつらが今国境門に居ないんで、さっさと抜けるに限ります。こんな素敵な情報を持ってきたんですから、褒めて下さいよ」

 ぬっと手をアビィの前に出し、にこにこと男は笑った。

「これだから、コイツは……」

 そう言いながらもアビィは幾許いくばくかを渡していた。

「毎度あり。あっ坊ちゃん、これかしらからの手紙。珍しく協会経由の特急だったんです。何が書いてあるんですか?別れの挨拶ですか?」

 あまりない事なのか、アビィも手紙を読みながら驚いていた。

「……これ確認していいよ。…………もう、会ってるんだよなぁ」

 読み終えた手紙を男に渡し、顔に手を当て何かを小さく呟いた。

 私の意識は別の事に囚われ、アビィの言葉は聞こえなかった。

 今を逃せば、国境を越えるのは難しくなる。

 ゆっくり進む馬車の群れは、私の焦る気持ちも知らず国境門へ通じる道を進んでいった。




しおりを挟む
感想 206

あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

処理中です...