無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

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国境へ

13 馬車に乗った人達は

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 新しく五人を乗せて、私は国境の街ブルンデンに向かっている。
 歩みはかなり遅いが、それでも徒歩よりは早い。

 少し村から離れた所で、後ろの馬車の護衛の人がこの馬車と並んだ。

「おーいアビィ、もう大丈夫だぞ」
「分かりました。ありがとうございます」

 隣の男の子が応えていた。
 私は、その二人のやり取りを不思議そうに見ていた。
 ただ、表情には殆ど出ていないだろう。

 男の子は、私が凝視しているのに気づいた様だ。
 こちらに向き、説明をしてくれた。

「驚いた?ごめんね。この馬車、あの村で荒くれ者に目を付けられていたみたいでさ。知り合いに頼まれたんだ」

 最初に、自己紹介をお互いにしていない事に気づいたのか「アビィと呼んで」と言われた。
 私は前回リディと咄嗟に言ってしまったが、今回はリーシャと名乗った。

 最初は、全く違う呼び名を考えようとした。
 リディアーヌの名は、あまり呼ばれた事がないから愛着もない筈だった。

 色々と考えを巡らせていると、私の願望が見せた昔の夢を思い出した。
 夢の中で何回か、優しい声で呼ばれた事があったのだ。
『リディアーヌ、愛しい娘』と……。

 思い出し、気付くと近い名前に決めていた。
 あまり違いすぎると、反応出来ないかもしれないからと理由を付けて。


「お節介だろう。国境の街は、お節介が多いんだ。あの山道を越えて来るからさ。昔から、怪我人や行き倒れた人やらをよく面倒見てたというしな」

 情報を集める際に、他の従者の方や護衛の方達はとても親切にしてくれた。

「勿論、打算もあるよ。こんな込み入った所で騒動が起きたら、巻き込まれるだろう?それでなくても、この状態で混乱していたんだ。護衛なんてしている連中は、危機回避能力も備わっているからな」

 その危機回避能力、分けて欲しい。

「ウチのお袋も、とにかくお節介でさ。商人なんだけどな。それ見ているせいで、俺もちょっとだけお節介。あぁ、相手の嫌がる事はしないよ……多分ね」

 それから、商人見習いでついて行った出来事などを話してくれた。
 びっくりする位、良く舌が回る。

「街に滞在するんなら、お節介されても『ありがとう、またね』位の返しでいいから。初めての人達だと、対応に色々困るらしいから覚えておいたらいいよ」

 そんな風に、アビィから色々と教えて貰った。
 でも何故だろう?既視感があると思うのは。
 少し思い悩んでいると、馬車から声がかかった。

「アビィ、こっちの説明もしてよ。あっ、私はローラね。ちょっと、家出中なの。だって、フィルだけ村から出て行くなんて、お姉ちゃんとしては心配でしょ」

 元気な声でローラが言った。

「……誰が『お姉ちゃん』だ。二月しか変わらない」

 ぼそりとそんな声が聞こえた。
 小さな村育ちの二人は、姉弟の様に育ったという。

 ローラは村を出る事に反対され、フィルのメイドとして簡易門を通って、オーリア国について行く予定だったとか。

「私達も元々は二人で行動していました。私が従者を務めるレニーと言います。彼が主のリュド。あの村で馬車を都合する予定だったのですが、どうやら難しいようですので便乗させて貰いました」

「あの村で、乗り合い馬車が終わるとは迷惑にも程がある、ふん」
「申し訳ない。かなり不貞腐れてしまいまして。もう少し早ければ、この騒動に巻き込まれなかったものですから」

 アビィは友人がさっきの村にいて、挨拶に来たら戻れなくなった。
 この五人は村の食堂で知り合い、意気投合したらしい。

 アビィとフィル、リュドは目的地が同じで、オーリア国からの招待状を所持していた。
 その書状には随行人は一人、と記載があるという。

「アビィには、随行人はいないのですか?」

 国境の街で待っているんだろうか?と思って、何気なく聞いてみた。

「友人に聞きに行ったら、断られてさ。考え中なんだ」

 そんな返事が返ってきた。




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