無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

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国境へ

10 リディの状態

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―――アルマー商会護衛隊長ブノー視点

 定宿コトリ亭のアルメルとリディの宿泊部屋に、俺は来ている。

「じゃあ、リディを呼んでくる」

 固い表情のアルメルは、ため息を残し部屋を出ていった。

 本来小さなテーブルに二脚の備え付けの椅子のところ、もう一脚増やしている。
 リディを連れてきて皆が着席し、アルメルは話を切り出した。

 やはりリディは簡易門を使うつもりだった様だ。
 王都にいるリディの耳にまで噂が入っていれば、そりゃあ悪用する奴も出てくる。

 俺は、二人の話を気をつけながら聞いていた。
 本来のものか、令嬢としての訓練の賜物か、リディの表情はわかりにくい。

 その表情が、簡易門が使えないと知った時かなり沈んだ。

「リディ、予定がないのなら家に帰った方が良くないかい?衝動的に家を出たのなら、一度連絡をするのはどうだろう。リディの事だから、何か余程の理由があるのかもしれないとは思うよ。どうしても嫌だと言うのなら、どうだろう。もし良かったら、私達にその理由を相談してみては貰えないだろうか。力になれるかどうかは分からないが、出来るだけ手助け出来るように……」

 アルメルは、つらつらと言葉を繋げていく。
 商談でのやり取りは、腹の探り合いや時には怒鳴り合いでの交渉だ。
 平民同士は、表情をあまり隠さずにやり合う事の方が多い。

 勝手が違うからなのか、優しく気を使って言おうと意識するあまり、リディからの反応がない事に勘違いをしている。

 いつもの様に表情が薄いのではなく、全く反応してないぞ。
 俺は急いで、アルメルを止めた。

「おい、アルメルやめろ」
「なんだい、ブノー。こっちは優しく言ってるだろうが?何が不満なんだ」

 気を使って話していた分、止めた俺に不機嫌に噛みついた。

「リディが固まってしまって、聞こえてないぞ」

 俺は、リディの顔の前で手を振ってみせた。
 全く反応しないリディに、アルメルは焦って言い訳をする。

「え?言い方、気をつけたよな。公爵令嬢とも言ってないよな」

 アルメルにしては、リディに寄り添う様にかなり気をつけていた。
 リディは提案をした最初辺りから、様子がおかしかったのだ。

「……もしかしたら、余程家に帰りたくない?」
「知られずオーリア国に行くつもりの娘に、帰宅をうながすのは止めた方がよかったか?」

 不安そうに言うアルメルだが、この場合確認しなければならない事だ。

「いや、それは間違っていないと思う。身元が公爵令嬢なら、他国で何かあった場合の酷さもヤバさも跳ね上がるからな」
「せめてオーリア国の知人に会いに行くとか、向こうに知り合いがいれば違ったんだが」

 そんな話をしながらも、リディをベッドへ運ぶ。
 余程触れたくない内容だったのか、リディは気を失ってしまっていた。
 椅子に座らせたままより、寝かせた方がいいだろう。

 その後も俺達は相談していたが、その内リディはうなされ始めた。

「…………ぅん……お…父様……お母……様、ぃや……叩かないで……痛い……や……」

 このうめき声で、俺はアルメルにこっぴどく睨まれる事になる。
 リディが傍に居なければ、怒鳴り散らされていただろう。

 俺達の中では、リディと両親との関係にそんな情報はなかった。

 俺がアルメルに伝えた情報は、エイヴァリーズ公爵は貴族にしては子煩悩。

 双子の娘がいるが、両方共・・・に気を配っている。
 これは噂からの判断ではなく、実際に公爵と会っての主観だった。

 年中・・諸外国を飛び回る、この国の外交を司る要人として、騎士時代に護衛に付いた事があったからだ。

 今は、次のユーフルディア帝国との会合の最後の詰めで、この国に戻ってこられていると聞いた。

 俺はてっきり、その時にでも衝突したのだろうと思っていたのだ。



 公爵家の力でいくらでも止められる、巷に流れるリディアーヌ・エイヴァリーズ公爵令嬢の不可解な良くない噂と相まって、俺は何やら薄ら寒いものを感じた。







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