無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

文字の大きさ
上 下
36 / 42
国境へ

11 決意

しおりを挟む
 私は、何故かベッドにいた。

「あぁ、起きたのかい?随分うなされていたから心配したよ」

 そう言って、アルメルさんはコップを差し出してくれた。
 余程喉が乾いていたのか、ゴクゴクと飲み干す。

 うなされただなんて、私は変な事を言わなかっただろうか?
 不安でアルメルさんとブノーさんを見るが、二人に変わった様子はなかった。
 だったら、この異様な喉の乾きは?
 私が物思いに耽る前に、アルメルさんが話を切り出した。

「リディは、話の途中で気を失ってしまったんだよ。余程簡易門が使えない事がショックだったんだね。どうする?今度の事もあるし、話を終えてしまった方がいいと思うが、気分が悪ければ後回しにするか?」

 あぁ、そう思われたんだと、私は少し安心した。
 この二人には悪いけれど、まだ私が公爵令嬢だった事は打ち明けられない。
 それに家に帰る事を、何よりも恐れているなんて知られたくない。

 話を後回しにして、何かが変わるのだろうか?
 私はかぶりを振った。

「アルメルさん、話を中断してごめんなさい。続けてください」

 今度は何を言われても大丈夫と心に刻み、アルメルさんの話を聞いた。
 アルメルさんは、まず簡易門で出る予定だった私の理由を聞いてきた。

「家に知られたくないのです。帰るつもりもありません!」

 これは二人に、伝えてしまっていいのだろうか?
 でも……と強い意志で決意して、私は言い放った。
 私は伝える前に、深呼吸が二回ほど必要だったけれど。

「……そうか、理由を聞かせてくれる事は出来る?」

 アルメルさんのその言葉に、私は何度も首を横に振った。
 言いたくないという気持ちと、言ったら私の事が分かってしまうと気持ちがあった。

 今なら私は、幼いただの世間知らずの家出少女。
 実際には家から追放されていても、探されているのならそんなものは関係ないのだろう。

 頑なに理由を言わない私に、アルメルさんとブノーさんは痛ましそうに私を見て、オーリア国への入国について話始めた。

「確実なのは、オーリア国の権威ある方からの招待状を貰う事だな。これなら、通常の国境でも水晶なしで通れる時間帯がある。閉門間近の時間帯のギリギリなら、対応が大雑把になる人がいるんだ。これ秘密な」

 それは、職務怠慢というのではないだろうか?
 それとも、袖の下だろうか?
 それは何だか嫌だなと、選択肢もないのに思ってしまう。

「この国の元王宮魔術師長が、オーリア国に招かれ魔術の特別指導をしている。私の息子も指導してもらいに行く。国境では何人もそういうのがいるから、その中の一人としてなら目立たないんじゃないかな?」

「私は魔力が少ないから……」

 魔術の勉強だけなら興味あるけれど、実技が入ると無理だろう。

「オーリア国はこの国と違って、高魔力の持ち主は少ない。その中で実力を付けれる様に指導していると聞いている。平民相手だから、皆それ程魔力は多くないはずだよ。まぁ、学んでから当分は、オーリア国の為に働かないといけないみたいだけど」

「アルメルさんは、隣国のオーリア国の事に随分詳しいのですね」

「そりゃあ、商人だからな。この国とオーリア国を行き来して商売をしていると自然と情報は入ってくるもんだ」

 これは、一見素敵な提案に思えた。
 でも、パレテヌミーユ侯爵家の現当主は今陛下の片腕だ。
 元王宮魔術師長がオーリア国に行かれた経緯が分からない以上、そこから私の情報が流れないかしら。
 それに、オーリア国の為に働くのも私の立場では難しいだろう。
 下手をすると、両国の問題まで発展しないとも限らない。

 私は真剣に悩んでいると、不意に気になる言葉が耳に入った。

「なぁに、令嬢・・だったら元王宮魔術師長だって喜んで教えるさ。もしかして、王都・・ででも知らず会っているかもしれないよ」

 とても労りを込めた言葉だった。
 優しい言葉だった。

 世間知らずな私は、どこかの令嬢だと思われたかも知れない。
 でも王都から来たとは、一言も言っていない。

 一つだけなら偶然だろうと思えた。
 でも二つだったらどうだろうか……。

 私はアルメルさんとブノーさんを見た。
 アルメルさんは、自分の言った言葉に全く気づいていない。
 ブノーさんは…………あぁ、知っているんだ、私の事。

 一瞬ブノーさんが顔を歪め、アルメルさんを凝視した瞬間に私はそう思った。


 私の事を最初から知っていたのか、それとも私が寝言で洩らしてしまったのかは分からない。

 でも、知った上で提案して貰った事は、とても数日前に出会ったばかりの者にする事じゃない。
 私はこの話し合いでは、答えを曖昧にして終わらせた。



 私は、日が昇る前にこっそりと宿を抜け出し、二頭の馬を連れ馬車の修理屋に訪れた。

「嬢ちゃん、どうした?早すぎやしないか。こっちは徹夜で、今修理が終わったところだから起きてたがな」

「ごめんなさい、急に予定が変わったんです。修理が完了していて助かりました。ありがとうございます」

 少し強引だったが引き取って、そのままこの街を出た。




しおりを挟む
感想 206

あなたにおすすめの小説

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

処理中です...