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国境へ
9 問題点発覚
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朝から護衛の人達と一緒に、昨日の馬車の修理屋に訪れた。
何時頃に仕上がるかは、朝でないと分からないと言われていたからだ。
店主から順調にいった場合、夕方。
何か不測の事態が起きた場合、もう一日欲しいと言われた。
「おやっさんにしては、手際悪いな。ぱぱっと仕上げられないんか?」
「無茶言うな。中が見た目と違って少し複雑になってたんだよ。嬢ちゃん、これ揺れ少なかっただろう?」
学園までは、舗装された馬車道だった。
家を出てからは、馭者席にいたから詳しくは分からないけれど……。
「多分。今乗せてもらっている馬車よりは、揺れなかった……かな?」
「そうだろそうだろ、うんうん。いい仕事してやがるからな。こっちもそれに応じないと職人の腕が泣くってもんだ」
そんなやり取りを修理屋の店主とした。
仮にも公爵家の馬車だものね。
とても地味だから、元はお忍び様だったのかもしれない。
「じゃあ、おやっさん。明日の朝取りに来るわ、それ迄によろしくな」
護衛の一人が、さっさと決めてしまった。
「え?あの……商隊の出発は大丈夫なのですか?」
アルメルさんに、聞かなくてもいいの?
「あぁ、夕方仕上がりだと結局泊まるからな。俺達との観光が優先だ」
「そうそう、頭も納得してくれるさ。なんせ俺達小綺麗にしてきたもんな」
「せっかく勝ち抜いたんだ。楽しものぜ」
「ここ、俺の故郷なんだ。穴場の案内は任せな。ブノー隊長が、連れて行っていない所に行こうか」
そんな声に押されながら、私は昨日に引き続き街の観光や穴場での美味しい昼食を楽しんだ。
私は今まで、なんて勿体ない過ごし方をしていたのだろう。
王都で買い物や食事などした事がなく、友人もおらず語らいもなく、ただ一人書物と書類に埋もれていた。
書物を読むのは好きなのだけど、こんな風に新鮮な風に吹かれ、新しい物を実際に手にするのとは全く違っている。
今回一緒に回ってくれた護衛の人達は、成人して少したった位の人達だった。
歳が近い分、あけすけに物を言われて戸惑う事も多いけれど、とても親しみやすく楽しかった。
そう、現実を忘れて一時の楽しみを知った。
だから、この後待ち構えていた現実に打ちのめされる事になる。
私は、今まで順調とは言えないけれど、それでも国境をこのまま越えられると思っていた。
問題点を知ったのは、宿での夕食が終わった後。
アルメルさんからだった。
「リディ、ちょっといいかい。今後の事を相談しようと思うんだ」
アルメルさんは、とても硬い表情で私に語りかけてきた。
それは、今までのアルメルさんとは違って、緊張を強いる雰囲気だった。
私は、コクリと頷き一緒に昨日寝泊まりした部屋に入った。
部屋にはブノーさんが既に居て、椅子に腰掛けていた。
「リディ、聞きたい事があるんだ。オーリア国に向かっていると言っていたよね。何か予定でもあるのかい?」
私はただ自分の人生を自由に歩む為、この国から出てかった。
その先はまだ固まっていない。
色々としたい事はあるが、まずはクローディル国脱出と考えていた。
「予定は特にないです。出国には予定を聞かれるのでしょうか?」
「どうかな?不審だと思われたら聞かれるかな?例えば家出とかな。でもそういう場合、届けが出ていれば水晶で分かるから」
出国で、厄介となるのは水晶の調べだ。
本来、犯罪の抑止や犯罪者の確認に使われる。
しかし、国境の検問官に事前に知らせておけば照合は可能だ。
だけど国境の街ブルンデンでは、それがない門があるという。
昨年だったかな、クラスでそんな話を聞いた。
「オーリア国へは、水晶がない門もあると聞いているのですが、そういう時はどうなっているのでしょう?」
私は単なる疑問ですよ、という風を装って聞いた。
私にとっては大切な事、国境では王都から来た騎士が配置されているかもしれないから。
内心ドキドキと鳴る心臓を、素知らぬフリしてやり過ごす。
そんな私を見て、アルメルさんとブノーさんが顔を見合わせため息をついた。
「やっぱり、リディは簡易門を使うつもりだったんだな。あのねリディ、半年前から簡易門は閉鎖されているんだよ。正規の門以外、オーリア国には渡れない」
「そ、そんな……」
前提条件が違っていたなんて……。
私は愕然となり、一瞬頭が真っ白になった。
そこで不意打ちに紡がれた言葉は、咄嗟に全てを投げたしたい程だった。
「リディ、予定がないのなら家に帰った方が良くないかい?……………」
アルメルさんが何か言葉を続けていたが、私の耳には全く入ってこなかった。
何時頃に仕上がるかは、朝でないと分からないと言われていたからだ。
店主から順調にいった場合、夕方。
何か不測の事態が起きた場合、もう一日欲しいと言われた。
「おやっさんにしては、手際悪いな。ぱぱっと仕上げられないんか?」
「無茶言うな。中が見た目と違って少し複雑になってたんだよ。嬢ちゃん、これ揺れ少なかっただろう?」
学園までは、舗装された馬車道だった。
家を出てからは、馭者席にいたから詳しくは分からないけれど……。
「多分。今乗せてもらっている馬車よりは、揺れなかった……かな?」
「そうだろそうだろ、うんうん。いい仕事してやがるからな。こっちもそれに応じないと職人の腕が泣くってもんだ」
そんなやり取りを修理屋の店主とした。
仮にも公爵家の馬車だものね。
とても地味だから、元はお忍び様だったのかもしれない。
「じゃあ、おやっさん。明日の朝取りに来るわ、それ迄によろしくな」
護衛の一人が、さっさと決めてしまった。
「え?あの……商隊の出発は大丈夫なのですか?」
アルメルさんに、聞かなくてもいいの?
「あぁ、夕方仕上がりだと結局泊まるからな。俺達との観光が優先だ」
「そうそう、頭も納得してくれるさ。なんせ俺達小綺麗にしてきたもんな」
「せっかく勝ち抜いたんだ。楽しものぜ」
「ここ、俺の故郷なんだ。穴場の案内は任せな。ブノー隊長が、連れて行っていない所に行こうか」
そんな声に押されながら、私は昨日に引き続き街の観光や穴場での美味しい昼食を楽しんだ。
私は今まで、なんて勿体ない過ごし方をしていたのだろう。
王都で買い物や食事などした事がなく、友人もおらず語らいもなく、ただ一人書物と書類に埋もれていた。
書物を読むのは好きなのだけど、こんな風に新鮮な風に吹かれ、新しい物を実際に手にするのとは全く違っている。
今回一緒に回ってくれた護衛の人達は、成人して少したった位の人達だった。
歳が近い分、あけすけに物を言われて戸惑う事も多いけれど、とても親しみやすく楽しかった。
そう、現実を忘れて一時の楽しみを知った。
だから、この後待ち構えていた現実に打ちのめされる事になる。
私は、今まで順調とは言えないけれど、それでも国境をこのまま越えられると思っていた。
問題点を知ったのは、宿での夕食が終わった後。
アルメルさんからだった。
「リディ、ちょっといいかい。今後の事を相談しようと思うんだ」
アルメルさんは、とても硬い表情で私に語りかけてきた。
それは、今までのアルメルさんとは違って、緊張を強いる雰囲気だった。
私は、コクリと頷き一緒に昨日寝泊まりした部屋に入った。
部屋にはブノーさんが既に居て、椅子に腰掛けていた。
「リディ、聞きたい事があるんだ。オーリア国に向かっていると言っていたよね。何か予定でもあるのかい?」
私はただ自分の人生を自由に歩む為、この国から出てかった。
その先はまだ固まっていない。
色々としたい事はあるが、まずはクローディル国脱出と考えていた。
「予定は特にないです。出国には予定を聞かれるのでしょうか?」
「どうかな?不審だと思われたら聞かれるかな?例えば家出とかな。でもそういう場合、届けが出ていれば水晶で分かるから」
出国で、厄介となるのは水晶の調べだ。
本来、犯罪の抑止や犯罪者の確認に使われる。
しかし、国境の検問官に事前に知らせておけば照合は可能だ。
だけど国境の街ブルンデンでは、それがない門があるという。
昨年だったかな、クラスでそんな話を聞いた。
「オーリア国へは、水晶がない門もあると聞いているのですが、そういう時はどうなっているのでしょう?」
私は単なる疑問ですよ、という風を装って聞いた。
私にとっては大切な事、国境では王都から来た騎士が配置されているかもしれないから。
内心ドキドキと鳴る心臓を、素知らぬフリしてやり過ごす。
そんな私を見て、アルメルさんとブノーさんが顔を見合わせため息をついた。
「やっぱり、リディは簡易門を使うつもりだったんだな。あのねリディ、半年前から簡易門は閉鎖されているんだよ。正規の門以外、オーリア国には渡れない」
「そ、そんな……」
前提条件が違っていたなんて……。
私は愕然となり、一瞬頭が真っ白になった。
そこで不意打ちに紡がれた言葉は、咄嗟に全てを投げたしたい程だった。
「リディ、予定がないのなら家に帰った方が良くないかい?……………」
アルメルさんが何か言葉を続けていたが、私の耳には全く入ってこなかった。
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