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国境へ

4 事故

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 私はオーリア国に繋がる街道を選び、馬車で駆けていた。
 追われる可能性は考えていたが、本当にそうなっていた。
 変装しているといっても、髪の色を少し変えただけだから油断出来ない。
 出来るだけ早く国から出たいと思った。
 戻りたくないと、心も体も叫んでいた。

 友好国とはいえ小国であるオーリア国の街道は、今までの街道と違い馬車の往来が少ない。
 その分私のような小柄な娘が、箱型の馬車を操っているのは目立つ。

 馬車の窓は閉めてあるが、誰が乗っているのかと好奇な視線を浴びる時があった。

 すれ違う幌馬車からならいいが、明らかに巡回中と分かる兵からの視線は怖かった。
 どこかでこの馬車を幌馬車と交換していれば良かったと思ったが、そんな宛はなかったのだから仕方がない。

 私はただただ焦りのあまり、知らず馬達を急がせていた。
 慣れていない私の操作に応えてくれていた馬達が、私の心を分かっているように徐々に早く駆ける。
 平坦な風景は自分の出している速度を感じさせず、気付けば休憩もそこそこに進んでいた。

 夜休む際には魔力はあまり使いたくなかったが、感知の魔道具を作動させた。
 人気のない場所の獣や盗賊を知る為だ。

 魔力を使うと魔術で探知される可能性が増す。
 徹夜に慣れているはずが、気付けば寝入っている事もあり、朝の光を感じて焦って起きた。
 
 そんな道程など、続けられるはずもなく……。

 周りは見渡す限りの田園の街道を、馬車を駆けていた時だった。
 えっ、と思った時には遅く馬が倒れ馬車が横転した。

「……痛っ。はっ、馬は?馬車は?」

 私は少し前に飛ばされた様で、後ろを振り向けば倒れた馬車があった。
 馬は二頭とも口横に泡を出し、息も切れ切れに喘いで倒れており、内一頭の脚の形がおかしかった。

「とにかく、馬車から外さなきゃ」

 重い箱部分が邪魔と感じながら、何とか馬具を外した。
 横転した馬車を開けるのも一苦労だった。

 中から二つカバンを取り出すも一つが濡れている。

「大変、ポーションどうなったの?」

 取り出したポーションは、五本全ての容器にヒビが入っていた。
 急いでコップに入れたが、残っていたのは三本弱位だろうか。
 それを持って馬の所に行った。

「ごめんね、無理させたんだよね」

 馬は大きいし、人用のポーションが効くかは分からない。
 ただ私は祈りながら、二頭にポーションを飲ませた。

「ブブブブッ」

 優しい馬の鳴き声にほっとしていると、一頭にぺろりと頬を舐められた。

「いっ……あぁ、ありがとう」

 傷に染みる痛みが一瞬したが、すっと引いていった。
 馬の舌に付いていたポーションが作用したのだろう。
 そこで私は、自分も怪我をしていた事に気付いた。

「痛みに慣れているのも考えものね」

 苦笑混じりに呟くと、少し残っていたポーションを飲んだ。
 傷と一緒に疲れも焦りも飛んでいった気がした。

 横転した馬車をどうしようかと考えたが、力が足りない。
 とりあえず点検してみたが、車軸が少し歪んでいるだろうか。

 そのまま放置も出来ないし、馬達を見ると凄くのんびりしていた。
 そんな場合ではないけれど、私もゆっくりしようかなと考えていた所に遠くから複数の馬車の音が聞こえてきた。

 私の馬車が道を塞いでいたので、複数の馬車の主だろう人が声を掛けてくれた。

「こんな平坦なところで横転なんて、よっぽど下手なのかね。どれ、お前達手伝ってあげなさい」

 その人はそう言って、護衛の人達に命じてくれた。



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