無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ

文字の大きさ
上 下
2 / 25

2話

しおりを挟む
 優成は、7人組アイドルグループ・ORCAオルカの最年少メンバーだ。
 弱小事務所で仕事も金もないゆえに共同生活を強いられていた昔とは違って、今では各々やっていけるくらいには仕事があるが、メンバーたちの意向で共同生活が続いている。そのくらいには仲の良いグループだった。
 特に優成は1番年下として年上メンバー全員に可愛がられてきたこともあり、今まで苦悩で眠れない夜を過ごしたことはなかった。

(それも昨日までは……だけど)

 昨晩高嶺と解散してから全然眠れないまま朝を迎えた優成は、キッチンでコーヒーを淹れていた。
 真面目な優成は、明樹のことが恋愛的な意味で好きなのか、そもそもいつからメンバーたちに気を使われていたのか、夜通しベッドで考えてみたが答えは出ていない。

「好きって……いやいや、そんな」

 みんなに誤解されてるだけだ、と首を振っていると背後に何者かの気配がした。

「……優成」
「うわ!じ、仁さん。殺し屋かと思った……」

 ファンから『天使の生まれ変わり!』とか言われているはずの宇塚仁は、目付きだけで人を殺しそうな顔で優成の真後ろに立っていた。
 仁は明樹の幼馴染で親友だ。一緒に事務所のオーディションを受けて、同じグループでデビューまでした、筋金入りの仲だった。

「おい、高嶺さんから聞いたぞ。お前、明樹のこと好きかどうか自覚してないんだってなァ?」

 ヤクザもびっくりの凄みを見せられて、優成は思わず持っていたポットを置いて直立した。

「っ、情報回るの早くないですか」
「なんで自覚ないんだよ?あり得ねーだろ。俺たちはお前の胸焼けしそうな明樹好き好き♡アピールを、頑張ってスルーしてやってたんだぞ」

 優成の言葉を無視して眉を寄せる仁は、普通に怖い。

「あの、マジで待ってくださいよ。その『明樹さんへの好意駄々漏れ』って、俺わかってないんですけど」
「ッカァー!無垢な顔してたら何でも許されると思うなよ、鈍感が」

 天使は死んだのかと思うほど圧のある顔で、仁がスマホを取り出す。

「いかにお前が明樹の前だとデレデレになってるかまとめた動画がある。俺が昨日夜なべして作った傑作だ」

 なんでそんな動画を作ったのか、と優成が聞く前に目の前で再生が始まった。
 それはインタビューの映像だったり、密着ドキュメンタリーの映像だったり、メンバーしか知らないプライベートな動画だったりしたが、共通しているのは優成が明樹にべったりくっついているか明樹を凝視しているということだった。ファンへのファンサ以上にニッコニコの笑顔が随所に出現していて、優成は自分で見ていて恥ずかしくなって目元を押さえた。自分では結構クールな男前キャラでアイドルをやっているつもりだったからだ。

「なっ、なん、これは……俺……?」
「どう見ても優成よ。言っとくけど、撮影されてる状況でこれだからな。普段の寮なんてもっと露骨だよ。見せつけられる俺たちの苦労がわかったか?」

 寮で明樹と絡んでいるとき、メンバーたちがどんな顔をしていたか思い返しそうになり、怖くてやめた。
  
「……俺って、本当に明樹さんのこと好きなんですか……?」

 優成はもう1度画面を見つめ直して、昨晩高嶺にも聞いたことを仁にも聞いていた。そのなんだか不安そうな声に、仁の眉間のシワが和らぐ。

「まぁ、俺たちが決めつけることじゃないのはわかってんだけどさ。でもここまでやってて無自覚なら、1回冷静に自分の気持ちと向き合ってほしい。それでマジで恋じゃないなら、とても深い仲間愛ってことで片付けられるし」

 そう言って動画を閉じた仁は、心の整理がついてないと顔に書いてある末っ子の頭にぽんと手を置いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結・BL】12年前の教え子が、僕に交際を申し込んできたのですが!?【年下×年上】

彩華
BL
ことの始まりは12年前のこと。 『先生が好き!』と、声変わりはうんと先の高い声で受けた告白。可愛いなぁと思いながら、きっと僕のことなんか将来忘れるだろうと良い思い出の1Pにしていたのに……! 昔の教え子が、どういうわけか僕の前にもう一度現れて……!? そんな健全予定のBLです。(多分) ■お気軽に感想頂けると嬉しいです(^^) ■思い浮かんだ時にそっと更新します

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

処理中です...