3 / 25
3話
しおりを挟む
収録とインタビューを終え、今日の仕事は終わり。
明日はオフなので、寮に戻ったORCAメンバーたちはそれぞれ思い思いに好きなことをやっていた。さっさと寝たり、作業部屋に閉じ籠ったり、遊びに行ったり。
そんな中、優成はリビングのソファに腰かけて床を睨み付けていた。というか、メンバーがリビングにほぼいないのは、悩める優成の顔が怖いからだった。
そんな年上たちの気苦労も知らず、優成は今朝がた仁に見せられた『明樹への好意駄々漏れ動画集』を繰り返し思い返していた。
(正直、流石に、あれは、好意駄々漏れと言われても仕方なかった……)
例えば優成と仁だって、よく肩を組んだりハグしたりするし距離感も近いと言える。しかし、優成と明樹の絡みは、なんというか湿度が違った。優成が明樹以外のメンバーと絡むときはカラッとしている空気感が、対明樹になると途端に濡れた感じになる。
そういう自己分析を叩き出すところまでは来たが、優成は答えを出せていなかった。
(俺はいったいいつから、インタビュー中にも関わらず穴が開くほど明樹さんの顔面を見つめ続けたり、明樹さんが話しているのをニッコニコで聞いていたり、撮影の時に異常に明樹さんとくっついていたりしたんだ……?)
優成としては、明樹もそれ以外のメンバーも平等に見つめているし、平等に笑顔を向けているし、平等にくっついていると思っていた。
しかし、現実は全く平等じゃなかったのだ。
「優成~Netflixに新作来たから一緒に観ようよ。って顔怖……」
「……明樹さん」
渦中の人物──中城明樹が軽い足取りでリビングに現れ、そのまま至近距離で顔を覗き込んできたので、優成は床を睨んだ顔のまま目だけ明樹に向けた。
明樹は『顔天才』の異名を持ち、アンチに「顔だけじゃん」と叩かれるくらいには顔のいい男だった。人を選ぶ派手なピンク髪も遜色なく似合っている。そんな明樹の美しく涼しい目元が少し見開かれた。
「床をそんなに睨んでどうした。故郷の村でも焼かれたのか」
「そんなわけないでしょ。俺は明樹さんと違って東京23区生まれの大都会人です」
「ちょっと仁、優成が冗談通じなくなってて怖いし、岐阜出身の俺をディスってきた」
「明樹は今来たから知らないだろうけど、優成はここ30分黙って床を睨み続けてるから、今絡まない方がいいよ」
自分のパフォーマンス動画を観てダンスの質をチェックしている仁は、スマホから顔を離さずに答える。
「そっか。じゃ仁、俺と一緒にIT観てよ」
「いいよ~ポップコーンあったよね、確か」
今朝がた優成にメンチを切っていたとは思えないエンジェルスマイルを、仁は明樹に向けた。
「ちょっと待った。観ないとは一言も言ってないです。俺が観ますよ」
離れようとする明樹の手首を優成が両手で掴むと、仁が目を細める。
優成の腕力が強いので、明樹はちょっとよろけていた。
「はぁ……それで無自覚とか」
それだけ言って、仁は目線をスマホに戻した。
(手首掴むことに自覚も無自覚も関係なくないですか?)
と、聞きたかったが明樹がいる手前聞けないので、優成は黙って立ち上がった。
「IT観てくれんの?」
「はい。ITでもTHATでも何でも」
「よし、じゃポップコーンとコーラ用意な」
ニカッと笑う明樹を見て、優成は自分の顔が笑顔になっているのに気づいた。そしてこの瞬間、「かわいい」と言いそうになっていた。視線を感じて振り返るとジト目の仁と目が合う。
これが好意駄々漏れかと思い、優成は唇を噛みながら口元に手を当てた。
明日はオフなので、寮に戻ったORCAメンバーたちはそれぞれ思い思いに好きなことをやっていた。さっさと寝たり、作業部屋に閉じ籠ったり、遊びに行ったり。
そんな中、優成はリビングのソファに腰かけて床を睨み付けていた。というか、メンバーがリビングにほぼいないのは、悩める優成の顔が怖いからだった。
そんな年上たちの気苦労も知らず、優成は今朝がた仁に見せられた『明樹への好意駄々漏れ動画集』を繰り返し思い返していた。
(正直、流石に、あれは、好意駄々漏れと言われても仕方なかった……)
例えば優成と仁だって、よく肩を組んだりハグしたりするし距離感も近いと言える。しかし、優成と明樹の絡みは、なんというか湿度が違った。優成が明樹以外のメンバーと絡むときはカラッとしている空気感が、対明樹になると途端に濡れた感じになる。
そういう自己分析を叩き出すところまでは来たが、優成は答えを出せていなかった。
(俺はいったいいつから、インタビュー中にも関わらず穴が開くほど明樹さんの顔面を見つめ続けたり、明樹さんが話しているのをニッコニコで聞いていたり、撮影の時に異常に明樹さんとくっついていたりしたんだ……?)
優成としては、明樹もそれ以外のメンバーも平等に見つめているし、平等に笑顔を向けているし、平等にくっついていると思っていた。
しかし、現実は全く平等じゃなかったのだ。
「優成~Netflixに新作来たから一緒に観ようよ。って顔怖……」
「……明樹さん」
渦中の人物──中城明樹が軽い足取りでリビングに現れ、そのまま至近距離で顔を覗き込んできたので、優成は床を睨んだ顔のまま目だけ明樹に向けた。
明樹は『顔天才』の異名を持ち、アンチに「顔だけじゃん」と叩かれるくらいには顔のいい男だった。人を選ぶ派手なピンク髪も遜色なく似合っている。そんな明樹の美しく涼しい目元が少し見開かれた。
「床をそんなに睨んでどうした。故郷の村でも焼かれたのか」
「そんなわけないでしょ。俺は明樹さんと違って東京23区生まれの大都会人です」
「ちょっと仁、優成が冗談通じなくなってて怖いし、岐阜出身の俺をディスってきた」
「明樹は今来たから知らないだろうけど、優成はここ30分黙って床を睨み続けてるから、今絡まない方がいいよ」
自分のパフォーマンス動画を観てダンスの質をチェックしている仁は、スマホから顔を離さずに答える。
「そっか。じゃ仁、俺と一緒にIT観てよ」
「いいよ~ポップコーンあったよね、確か」
今朝がた優成にメンチを切っていたとは思えないエンジェルスマイルを、仁は明樹に向けた。
「ちょっと待った。観ないとは一言も言ってないです。俺が観ますよ」
離れようとする明樹の手首を優成が両手で掴むと、仁が目を細める。
優成の腕力が強いので、明樹はちょっとよろけていた。
「はぁ……それで無自覚とか」
それだけ言って、仁は目線をスマホに戻した。
(手首掴むことに自覚も無自覚も関係なくないですか?)
と、聞きたかったが明樹がいる手前聞けないので、優成は黙って立ち上がった。
「IT観てくれんの?」
「はい。ITでもTHATでも何でも」
「よし、じゃポップコーンとコーラ用意な」
ニカッと笑う明樹を見て、優成は自分の顔が笑顔になっているのに気づいた。そしてこの瞬間、「かわいい」と言いそうになっていた。視線を感じて振り返るとジト目の仁と目が合う。
これが好意駄々漏れかと思い、優成は唇を噛みながら口元に手を当てた。
22
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
おかわり
ストロングベリー
BL
恐ろしいほどの美貌と絶品の料理で人気のカフェバーのオーナー【ヒューゴ】は、晴れて恋人になった【透】においしい料理と愛情を注ぐ日々。
男性経験のない透とは、時間をかけてゆっくり愛し合うつもりでいたが……透は意外にも積極的で、性来Dominantなヒューゴを夜ごとに刺激してくる。
「おいしいじかん」の続編、両思いになった2人の愛し合う姿をぜひ♡

【完結・BL】12年前の教え子が、僕に交際を申し込んできたのですが!?【年下×年上】
彩華
BL
ことの始まりは12年前のこと。
『先生が好き!』と、声変わりはうんと先の高い声で受けた告白。可愛いなぁと思いながら、きっと僕のことなんか将来忘れるだろうと良い思い出の1Pにしていたのに……!
昔の教え子が、どういうわけか僕の前にもう一度現れて……!? そんな健全予定のBLです。(多分)
■お気軽に感想頂けると嬉しいです(^^)
■思い浮かんだ時にそっと更新します
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

華麗に素敵な俺様最高!
モカ
BL
俺は天才だ。
これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない!
そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。
……けれど、
「好きだよ、史彦」
何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!

[完結]閑古鳥を飼うギルマスに必要なもの
るい
BL
潰れかけのギルドのギルドマスターであるクランは今日も今日とて厳しい経営に追われていた。
いつ潰れてもおかしくないギルドに周りはクランを嘲笑するが唯一このギルドを一緒に支えてくれるリドだけがクランは大切だった。
けれども、このギルドに不釣り合いなほど優れたリドをここに引き留めていいのかと悩んでいた。
しかし、そんなある日、クランはリドのことを思い、決断を下す時がくるのだった。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる