無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ

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1話

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優成ゆうせい、お前明樹あきのこと好きだろ」

 深夜2時。
 アイドルグループ・ORCAが住む、寮の共同リビング。
 一原優成いちはらゆうせいがここに来たのは偶然だった。
 なんだか眠れなくて、1回水でも飲もうとキッチンにやって来た。そしたら、リーダーの藤守高嶺ふじもりたかねが広いリビングのソファにひとりでいたので、軽く挨拶を交わして隣に座ったのだ。

「おいおい夜更かしは肌に悪いぞ。俺も人のこと言えないけど」
「目が冴えちゃって。高嶺さんも眠れないんですか」
「ん~、ちょっと色々考えてたら眠れなくなってね……」

 普段騒がしいことの方が多い高嶺が、静かなトーンで独り言のように言う。
 静寂と真顔を纏うとリーダーは本当にハンサムだな、と水を飲みながら輪郭を眺めていたら、チラッと意味ありげな視線を投げつけられた。ここにいるのを確認された気がして、考え事というより、なにか悩みを抱えているのではと優成は直感で感じた。

「……悩み事ですか?俺でよければなんでも言ってください」

 リーダーはリーダーであるがゆえに、悩みや苦労をメンバーに見せることがほとんどない。だからこそ、優成は日頃から高嶺の役に立ちたいと思っていた。

「あ~……うん。確かに今絶好のチャンスだな」

 天井を見上げてそう言った高嶺は、居直るように身体を動かして端正な顔を優成に向けた。
 そうして発せられたのが、

「優成、お前明樹のこと好きだろ」

 だった。
 明樹、というのは同じグループに所属する中城明樹なかじょうあきで間違いないはずだが、優成はなんでそんなことを言われたのか本当にわからなくて、しばしキョトンとした。

「…………え?高嶺さん、何言ってんですか」

(明樹さんのことが好き?)

 と、頭の中で繰り返してから、人間として好きかどうか聞かれているのかと急に思い当たる。

「あ、いや。普通に好きですよそりゃ。高嶺さんのことも他の皆のことも、好きですし」
「違う、恋としてだ。誤魔化さなくていい。俺はお前を応援しようと思ってる。ただ……」

 妙に真剣な顔で見つめられて、胸がざわつく。
 『恋として』と言われたところは、何故か頭が一旦スルーした。

「……ただ?」
「お前、明樹好きなの分かりやすすぎるから、ちょっと抑えた方がいい。てか、人前では抑えて欲しい。お前の好き好きアピール見せつけられて俺たちどうしたらいいかわかんないのよ。頼む、リーダーと約束してくれ」

 力強く小指を出されて、勢いに乗せられた優成は小指を出しかけたが、指切りをする寸前で小指をしまった。

「ちょ、ちょっと待ってください!俺、明樹さんのこと好きなんですか!?」

 深夜にしてはデカすぎる声を出すと、一瞬固まった高嶺がのけ反った。

「なんで俺に聞くの!?いやでも、どう見ても恋してんじゃん!言っとくけど、明樹以外みんな気づいてるからね!?ここ最近優成の好意駄々漏れがすごいから、俺が代表して注意しようってことになったんだから!」

 高嶺の真剣な顔に驚愕の感情が乗って、やっといつもの高嶺らしい顔つきになる。
 が、優成はそんな顔つきの変化に構ってられる心理状態ではない。

「な、なんで、俺……中城明樹、好き……恋として……?」
「まさか、本当に自覚ないのかしら、この子……?」

 高嶺がお母さんみたいな口調で目を見開いている間、優成の頭の中は笑う明樹やアンニュイな明樹でいっぱいになっていった。

(確かに明樹さんはめちゃくちゃカッコいい。でも、俺の好意が駄々漏れって……なに?恋としての好き、とは?いや、好きは好きでも……そういうのでは……)

 深夜1時過ぎにいきなり突き出された難問は、答えが出そうにない。

「……すみません、ちょっと考えてみます……おやすみなさい」
「え、あ、うん。おやすみ……」

 ふらりとドアに向かう優成を静かに見送った高嶺は、彼の背中が見えなくなったと同時にスマホを取り出し、1番の相談相手だったメンバー・宇塚仁うつかじんにLINEを飛ばした。

『優成、自覚なかったぞ』

 こんな夜更けに返ってこないと高嶺は思ったが、速攻で電話がかかってきた。

「もしも──」
『自覚ないとかマジで言ってんすか!?』
「うん、言ってた。あと人のこと言えないけど夜更かしやめなね」
『次俺がいきます。優成にわからせてやりますよ……!なにもかもを!』

 抗争でも始まるのかのような勢いで仁は高嶺にまくしたて、一方的に電話を切った。

「……やりすぎないようにね」

 高嶺は切れた電話に向かって付け足した。
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