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真実
しおりを挟む6月の終わり頃。
誕生日を半月後に控えていた陽日は、恐る恐る両親へとこの度の婚約の破棄を求める旨を、震える声で伝えた。
「咲夜さんと、結婚をお断りできませんか?」
少女にとって両親に伝える初めての我儘だった。
一昨日、訪れた咲夜が婚姻届を持ってきて目の前のテーブルに置いた瞬間に、絶望が少女の目の前を真っ白に染めた。途端に笑っている咲夜の顔も両親の顔も見えなくなって声も聞こえなくなってしまう。
『日取りは…』
『喜ばしいことで…』
『陽日も喜んでいて…』
ねえ、と誰かに肩を叩かれたけれど、陽日は固まったまま微動だに出来なかった。
微かに震えていた足の感覚だけが心に残った。
ずっと思っていた。
子どもの頃から、家の中に居場所が無いと。
我儘を言えない性分だった。もっと幼い、物心つく前には泣いたり気を引こうとしたこともあったのかも知れなかったが、覚えている限り、陽日は両親に心から甘えられたことがなかった。
甘えることが下手な子どもだったと、自覚しているし、甘えることができない理由もあった。
陽日が、彼らの本当の子どもではない事を知っていたから。
『陽日ちゃんは、どんどんミヤコさんに似てくるね。』
小学生の頃、昔から診療所に通っているきている患者さんのこぼした、何気ない言葉が発端だった。
(ミヤコ…?)
美夜子という名は、母の妹の名前だった。
母の妹は-これは大きくなってから知った事だけど-若くして病気で亡くなったのだそうだ。成人してすぐの事だったと。
そんな人に似ていると言われた時、初め、自分は母の妹にただ似ているだけだと思っていた。
けれど、母親に言われて何かの探し物をしていたクローゼットの中で、まるで隠すように仕舞われていた古いアルバムを、何かに導かれるように見つけてしまったあの日。
その人と、その人に抱かれた産まれたばかりの赤子の写真を見て、陽日は以前告げられた『ミヤコさんに似ている』という言葉をすぐさま思い出した。まさか、という不穏な思いが頭いっぱいに広がり、それでも震える指でページをめくった。
(あ…。)
子どもを抱きしめ笑う女性は、ページを捲っても捲っても、どの写真でもベッドの上にいた。
彼女はいつも儚げな笑みを浮かべていた。日に透けると金髪のように見える薄茶色の髪と瞳や顔立ちが、陽日のそれとそっくりだった。そして、彼女が愛おしげに抱きしめている赤子の髪と目の色も、全く同じ色だった。
その瞬間に、陽日は全てを理解した。
自分が、今の両親の実の子供ではなく、陽日を産んで幾ばくもなく病死したであろう、母の妹の子供だと言うことに。
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