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見つけたアルバムは、そのまま元あった場所に元通りにしまった。彼らに真実を確認することは出来なかった。まだ幼い少女にその事実は衝撃が大き過ぎて、自分の内側を崩れないように支えるだけで精一杯だった。
実の母が亡くなっていることと、何故、実の父が自分を手放してしまったのかという疑問が幾度も心に沸きあがった。
最初は少女のただの想像ではあったが、歳を重ねるにつれ、母が亡くなる要因になった自分を、父だった人は愛せなかったのではないかと思い至った。
だからそれ以降は、以前に増して湖へと1人で赴き、本を読む時間に没頭した。本の中に入り込んでしまえば、一人ではなかったしその時間だけは自分の心を大切にできた。
両親に、実の子どもである月花と変わらないように扱われている事は分かっていたけれど、いつの間にか聞き分けの良い子をずっと演じていた。そうしないと、本当には愛されないと思っていたから。
自分を引き取ってくれた両親に感謝をしながらも、いつも孤独だった。
そんな子どもの時分に氷魚に出会い、彼の明るさや優しさ、そしてその湖のように凪いだ青い瞳に恋をした。一緒の時間を過ごし、言葉を交わすことに心の安らぎを感じた。
(だから私は、氷魚を好きになった。)
彼に出会い、自分がいつもただの自分を愛してくれる人を探していた事に気がついたのだ。
誰よりも愛情を欲していたのは陽日だったのに、その心に蓋をして見えないようにしていたのも少女自身だった。
両親に愛されたくて聞き分けの良い子どもを演じてきたが、陽日は一か八か彼らに唯一の我儘を伝えた。成人するまで育ててもらった恩もある事は重々承知の上、自分の心をこれ以上偽りたくはなかった。
だからきちんと、気持ちを彼らに伝えた。
「ずっと、好きな方がいるのです。その人と一緒になりたいのです。」
けれど。
「そんな我儘を、今更言うんじゃない。」
「非常識よ、陽日。変なことを言い出さないで。」
「結納金だって既に頂いてると言うのに。」
「家名に傷をつけるつもりか。」
彼らは陽日の言葉を聞いた瞬間に、彼女を攻めるように睨みつけ、真っ向から否定した。なぜ陽日がその結婚を受け入れられないのか聞いてもらえることも無く、少女の最初で最後の我儘は伝えた途端に、両親によって粉砕された。
愛してもらえなかった。
やはり偽物では得られなかったのだと、陽日はその瞬間に心から絶望した。
薄茶色の眼から、大人になって初めて両親が見た陽日の涙が、ぽろりと頬を転がり落ちる。それに彼らはぎょっと瞠目し「陽日…」と声をかけた。
「…すみませんでした。」
少女は小さく呟くと、そっと白いワンピースの裾を翻してその部屋を出た。
そして二度と、家に戻ることはなかった。
実の母が亡くなっていることと、何故、実の父が自分を手放してしまったのかという疑問が幾度も心に沸きあがった。
最初は少女のただの想像ではあったが、歳を重ねるにつれ、母が亡くなる要因になった自分を、父だった人は愛せなかったのではないかと思い至った。
だからそれ以降は、以前に増して湖へと1人で赴き、本を読む時間に没頭した。本の中に入り込んでしまえば、一人ではなかったしその時間だけは自分の心を大切にできた。
両親に、実の子どもである月花と変わらないように扱われている事は分かっていたけれど、いつの間にか聞き分けの良い子をずっと演じていた。そうしないと、本当には愛されないと思っていたから。
自分を引き取ってくれた両親に感謝をしながらも、いつも孤独だった。
そんな子どもの時分に氷魚に出会い、彼の明るさや優しさ、そしてその湖のように凪いだ青い瞳に恋をした。一緒の時間を過ごし、言葉を交わすことに心の安らぎを感じた。
(だから私は、氷魚を好きになった。)
彼に出会い、自分がいつもただの自分を愛してくれる人を探していた事に気がついたのだ。
誰よりも愛情を欲していたのは陽日だったのに、その心に蓋をして見えないようにしていたのも少女自身だった。
両親に愛されたくて聞き分けの良い子どもを演じてきたが、陽日は一か八か彼らに唯一の我儘を伝えた。成人するまで育ててもらった恩もある事は重々承知の上、自分の心をこれ以上偽りたくはなかった。
だからきちんと、気持ちを彼らに伝えた。
「ずっと、好きな方がいるのです。その人と一緒になりたいのです。」
けれど。
「そんな我儘を、今更言うんじゃない。」
「非常識よ、陽日。変なことを言い出さないで。」
「結納金だって既に頂いてると言うのに。」
「家名に傷をつけるつもりか。」
彼らは陽日の言葉を聞いた瞬間に、彼女を攻めるように睨みつけ、真っ向から否定した。なぜ陽日がその結婚を受け入れられないのか聞いてもらえることも無く、少女の最初で最後の我儘は伝えた途端に、両親によって粉砕された。
愛してもらえなかった。
やはり偽物では得られなかったのだと、陽日はその瞬間に心から絶望した。
薄茶色の眼から、大人になって初めて両親が見た陽日の涙が、ぽろりと頬を転がり落ちる。それに彼らはぎょっと瞠目し「陽日…」と声をかけた。
「…すみませんでした。」
少女は小さく呟くと、そっと白いワンピースの裾を翻してその部屋を出た。
そして二度と、家に戻ることはなかった。
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