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27 海と夕日とプロポーズ テオ・ターン

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     ★海と夕日とプロポーズ テオ・ターン

 あぁ、俺はとうとう、サファと合意でセックスしてしまった。
 数日前の俺、なんで、あんな。サファと合意でセックスしたら、嫁、決定。だなんて、馬鹿な約束をしてしまったんだぁッ。
 いやいや、俺の狙いは。
 華麗にエロ攻撃を回避して、おまえとはその気にならない、嫁はあきらめろ。と、引導を渡してやる、はずだったのだ。
 だのに、なぜ、こんなことにっ。

 サファは、嫁の話はいったん保留にしてくれたけど。
 もう、絶対にその気だよ。
 見えるはずのない、銀の尻尾をブンブン振っているのが見えるもん。
 勇者にあるまじき、にっこにこの笑顔だもん。
 もっと、凛として、シャンとしろ。

「テオ、おかわり…このやり取り、もう、熟年夫婦じゃね? 俺たちっ」
 語尾にハートマークが見える。ウザッ。旦那面が、ウザッ。
 俺はサファから器を受け取り。スープをよそう。
 まぁ、飯は、食え。
 そして戦え。エロ攻撃から俺を守れ。
 口はへの字ながら。俺は、ん、と。器を差し出す。

「サファイアさま? なんだかご機嫌ですわね? 昨日、なにかありましたの?」
 イオナのおっとりした口調の質問に、サファは答えた。
「そうなんだ。結婚式の日取りが決まったんだ」
「決まってねぇ! 寝言は寝て言え、この調子っこきのアホ駄犬がぁッ」
 すかさず、否定して。
 ユーリとクリスは、いつもの痴話げんかだと、肩をすくめるのだった。

 痴話げんかでもねぇしっ。

 退避部屋で、しっかり休んで、寝て。朝ごはんもいっぱい食べた、勇者一行は。
 後片付けをしたあと、ピッカピカな笑顔で、第七階層のボス部屋の前に立ったのだ。
「よぉし、今日こそ、第七、第八と、続けて撃破し。このダンジョンを抜けようぜ? そしてテオと結婚式まっしぐらだっ」
 サファの、鼓舞のような、よくわからない言葉に、みんなは、おぅと手をあげる。
 付き合わなくていいよ、アホ駄犬の言葉なんかに。
 俺はジト目が直らなくなった。

 サファが、ボス部屋の両開きの扉を押し開ける。
 すると、小鳥の鳴き声がして。

 部屋の中は、森の中のようなだだっ広い空間が広がっていた。

 ダンジョンの中なのに、顔を上げると青い空が見え、雲もぷかりと浮いている。
 足元は、草原が。

「なんだ、これは? テオ、どうなっている? ボスは?」
 俺は、サファに聞かれて鑑定するが。空は空だし。草原も、草だし。
「普通の、ダンジョンの外にあったような、森みたいだ。ボスも、見当たらないな」
 ボス部屋の扉が閉まってしまえば、どこから入ったのかもわからなくなって。引き返すこともできない。

「これは、普通に魔獣を退治しながら、進むしかないのかな? ボスを倒さなきゃ、この空間から抜け出せないやつだろ?」
 勇者の憶測に、みんなもうなずいて。とにかく、森を進んで行くことになった。
 森の中には、おなじみの魔獣が現れた。
 薄水色のスライムや、バッファローの魔獣(ステーキ肉ゲット!)。
 ジャガイモの魔獣、オジャガマルや(ポテトゲット)トウモロコシの魔獣、モロコシジュウ(実を銃弾のように飛ばしてくるから、退治は大変だが。サファの攻撃でコーンをゲット)などなど。
 初級から中級の魔獣だから。勇者一行には、赤子の手をひねるくらいのもの。

 だが。下層の、手ごわいボス魔獣のようなモノとは、出会うことなく。
 日が暮れようとしていた。

「なんなんだ? どうしてボスが現れないんだ?」
 サファもみんなも、首をひねる中。俺は、つぶやいた。
「なんか、海の匂いがしないか?」
「ウミ?」
 俺は、懐かしい潮の香りを嗅ぎつけて。その方向に向かって足を進めた。

 そうすると、森を抜けた先に、海があったのだ。

 白い砂浜と、ザザーンと音を立てて打ち寄せる波、そして一日の終わりを示す夕日。
 とても、ダンジョンの中とは思えない。広い、広い、海だ。
「これが、海なのですか? 本でしか読んだことがないけど。こんなに、いっぱいの水が溜まっているなんて」
 ユーリが驚愕して、声を出した。
 みんなが、目を丸くしている。

「テオは、海を見たことがあったのか? 村を出たことが?」
 サファは俺にたずねるけど。
 そうだ。海を見たのは、前世の記憶の中だった。
 ヘルセリウム国には、海がない。陸地の真ん中にある国だからだ。
 海を見るなら、魔王城のある国や、隣国に旅をするしかない。
 さすがのサファも、まだヘルセリウム国の外には行ったことがないみたいだな?

「いや、海は見たことないけど。たまに行商人から買う、イカの塩辛みたいな匂いがしたから、そうかなって?」
 でも、前世の記憶で、とか言えないから。適当に誤魔化した。
「イカの塩辛ぁ? 俺、アレ嫌い」
 サファは、鼻の頭にしわを寄せた。本当に、嫌そう。

「味覚がお子ちゃまだからな、サファは」
 からかうと、サファは俺の首にヘッドロックをかましてくる。
 わぁ、ウザがらみしてくるなぁ。

「ひとりで、どこにも行かないで? どこへでも、俺が連れて行ってやるから」

 なんか、せつなそうな声で、懇願してくるから。
 俺は苦笑して。彼のぶっとい腕を、手でペシペシと叩いた。
「別に、おまえのいない間に、海に行ったわけじゃねぇよ」
 不安になることなんか、なにもないって。
 サファが生まれる前のことを、ちょっとだけ、覚えているだけなんだからさ。

「海、綺麗だな?」
 首に腕を回して、俺の肩に頭を乗っけているサファが。低音の美声で囁く。
 海は、さざ波に夕日の赤が反射して。赤や黄色や青や紫や白、そんないろいろな色が輝いていて。
「あぁ、とても綺麗だな」
 ただただ見惚れる、美しさだった。

     ★★★★★

 日が暮れる前に、今日の野営地に決定した浜辺で、火をおこし。テントを立てる。
 どういう仕組みかはわからないが、一応ダンジョン内なので。雨は降らないと思うけど。屋根があるだけで気持ちが安心するのは、人間の心理だからな。
 それに、まだ、ボスが現れていない以上、油断は禁物である。

「テオ、テオ、ちょっと来て」
 そうしたら、サファが俺の手を引っ張って、砂浜を走っていく。
「おい、まだ、準備があるんだけど?」
「ダメダメ、時間がないから。急いで?」
 なんの時間か、わからないけど。なにか、急な用事ができたのかと思って。サファについていく。
 そして、みんなの目が届かないくらい、離れたところまで来たら。
 サファは立ち止まって。
 俺の手を握ったまま、地に膝をついたのだ。
 こ、これはっ?

「テオ、ダンジョンを抜けて、魔王を倒したら、俺と結婚…」
「ダメーーーーっ」

 俺は、サファの言葉を途中で遮り、思い切り大きな声で、叫んだ。
「なんだよぉ。そんなに全力で拒否ることないだろ? つか、約束破る気かっ??」
 盛大に唇をとがらせているサファは、それでも、俺の手を離さないままに。立ち上がった。

「そうじゃないけど。じゃなくて、これ、フラグだろ? 縁起がわりぃじゃん」
 そうだ、○○したら結婚して、は。死亡フラグである。しかも、かなり強力である。もはや、呪いである。
 しかし、サファは鼻で笑うのだ。
「ないない、勇者は主人公だろ? この世の、主人公。主人公はフラグなんかじゃ死なないのっ」
「バカっ、主人公でも死ぬから、凶悪ワードなんだろうがっ。主人公でも、勇者でも、魔王でも、この言葉を言った者は、死ぬ。間違いなく、死ぬっ」
「もう、テオは。照れ隠しで死ぬ死ぬ言うなよな?」
「照れ隠しじゃねぇしぃっ」

 全くもう。サファは、イマイチ危機感が足りねぇんだからな?
 なんか、ずっと、ニヤニヤしてるし。

「でも、それってぇ。テオは俺に死んでほしくないんだぁ?」
「当たり前だろ」
 素で、答えたら。サファはふわっと微笑んで。俺の手の甲にうやうやしくキスをした。

 ギャッ。そういう恥ずかしいことを、真顔でするな。

「じゃあ、プロポーズは。魔王を倒したあとでするよ」
「それも、フラグ…」
「もう、いいってば。そうじゃなくて。テオが俺との結婚に踏ん切れない理由を教えて。そうしたら、勇者の一世一代の、二度目の渾身のプロポーズも、保留にしてあげる」
「なんだよ、一世一代の二度目のプロポーズって…」
 つい、ツッコんで。有耶無耶にして、誤魔化そうとしたが。

「往生際が悪いの、男らしくなーい。テオらしくなーい」
 そう言われてしまうと。ムムッとなってしまう。
「わかった。じゃあ、夕食のあとで、話してやるから。とにかく、今は早く設営しなきゃならないんだから、俺は忙しいんだ」
「えぇぇぇっ?? うぅ、わかったぁ。じゃあ、約束のチュウして」
「忙しいって、言ったろ? ほら、早く来い」

 俺は、散歩に飽きた犬を引きずるかの如く、サファの手を引っ張った。
 最初はデロデロとして、彼の足取りは重かったが。
 そのうち隣に並んで。俺の指の一本一本に指を絡める恋人つなぎをして。
 嬉しそうに、俺の顔を覗き込んでくる。

「テオと手をつないで歩くの、嬉しい。ずっと、こんな日が続いたらいいのに」
 そう言われると、彼の大きな手のひらとか。熱めの体温とか。そういうのを意識して。
 なんか、照れる。
 このダンジョンに入ってから、エロエロなことばかりだったから。ただ手をつないで歩くだけのことが、なんだか新鮮に思えた。

 そうだよ。普通の恋人同士は、こういうところから始めないと。
 つか、恋人同士って、なんだよ。俺たちはまだ、そういうのじゃないしぃ。
 そんな風に、自分で自分にツッコミを入れる。

「あぁあ、プロポーズするのに最高のロケーションだったから、ばっちり決めたかったのになぁ」
 ぼやくサファに、俺は苦笑を返した。
 確かに、海と夕日とプロポーズは、最高にロマンティックなシチュエーションだもんな?
 だから、彼の苦労をねぎらって。告げた。
「ありがとう、サファ」

 ひときわ、大きな波の音がして。

 俺はサファに、くちづけられてしまった。
 もう、時間がないって言ったのに。
 でも、赤ピンクに輝く海を背景に、ふたり重なる影が夕日によって長く伸びている、このロマンティックには。あらがえないかな?
 仕方ないなぁ。

 俺は、潮の香りと波の音に揉まれた、サファとのキスを…。

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