28 / 70
第5章
8
しおりを挟む陽自身が自分の胸に触れさせている手をするりと動かし、枢の手はそのまま鎖骨や首筋を撫でていく。枢の手の動きに合わせて陽は目を瞑ったり開けたり、小さく声が漏れている様子さえ愛おしい。彼の細い顎を撫で、親指で陽の唇をふにふにと弄んだ。
「電話中になんで噛んだの?ん?頭も顎も撫でてあげてたのに、何が不満だったの」
「おれのせいじゃない……」
「おれのせいじゃない?俺は理由を聞いてるんだよ、ヒナ。〈Speak〉」
「ぁっ、だって、あんなのご褒美じゃない……!他の人に意識が集中して、おれのこと見てくれてなかったから!そんなの嫌だ、おれがいるのに、他の人のこと考えないで……いおりってだれ、なんで会うの楽しみとか、ご飯行こうとか、おれの前で話すの?ほしせんせいがそんな人だと思わなかった」
星先生のばか、あほ、最低。と言って陽は唇を尖らせている。正直、陽には独占欲だとか嫉妬だとか、そういうどろどろした汚い感情はないのだと勝手に思っていた。ただ、彼も人並みにそういう汚い感情を持っているのだと分かって、なんだか嬉しく思う。しかもその感情を自分に向けられているかと思うと、あまりの優越感に胸が満たされた。
「……どこを触ってほしいの?キスは?どこにしてほしい?」
「全身、どこでも、枢の好きにして…おれを枢で満たして……」
仰向けになり、無防備に体を晒している陽の胸元をTシャツの上からなぞる。この服の下を暴きたいけど、ここで理性に負けたらただの猿だ。陽のことを大事にしたい、大切にしたい。宝箱にしまったまま、閉じ込めておきたい。
枢は服に隠れていない肌に口付けて、時折柔く食んだ。膝上からつま先までキスをして、汗が滲んで濃い香りを放つ首筋に噛みつくと陽の体が一層跳ねる。あぁ、社会人というのは厄介だ。人前に出る職業だから、キスマークや歯形だらけにして『自分のもの』だという痕を残せないのだから。
「こっち向いて、〈Open〉」
「ふ、ぁ……っ」
「ほんと、ヒナの口って大きいね。舌も大きくて分厚くて……舐めたら美味しそう」
口を開けたまま健気に待っている陽は、こくりと小さく嚥下する。
早くきて、舐めて、吸って、ぐちゃぐちゃにして。
そんな陽の声が聞こえてくるようだったが、まだご褒美はあげられないとぐっと堪えた。
「ごめんなさい、しましょうね?」
「へぁ……?」
「ご褒美待てなくて、嫉妬して、指噛んでごめんなさいって。〈Say〉」
「んぅ、う、ぷは、ゆえな……っ」
謝ってと言う割にキスをして攻め立てる枢の胸を叩きながら、息継ぎの合間に「そんなにされたら謝れない」と苦しそうに紡いでいる。謝ってというコマンドを出しているから実行しないといけないのに、同時にご褒美ともいえるキスをされているから陽も訳がわからなくなっているのだろう。
どうしたらいいのか分からない彼は枢の服をぎゅっと掴んで、空気と一緒に吐き出すように「ごめ、ごほうびまてなくて、しっとして、ゆび、ごめん……」と律儀に謝ってくれたので髪の毛を梳くように優しく頭を撫でる。ぐちゃぐちゃと絡めていた舌先をちゅうっと吸って労わるように口付けると、陽の瞳に宿る赤色のハートの色が濃くなった気がする。
「〈Good Boy〉、ヒナ。後輩にもちゃんと謝れて、本当にいい子」
唇を離すと二人の間を繋いでいた透明な糸が、ぷつり、クモの糸のように切れてしまう。すっかりとろけてしまった陽はぼーっとしていて、相変わらず枢の服をきゅっと掴んでいる。
そんな彼の様子を見て枢はハッとした。もしかしたら『Sub Space』に入ったのか?
夢の中にいるようにふわふわとろとろしてい陽は、Domの枢を完全に信頼してくれたのかもしれない。『Sub Space』は第一にDomとの信頼関係がないと入れないのだが、枢は今までSubのそんな様子を見たことがないので、これが本当に『Sub Space』なのかは分からなかった。
「ヒナ?俺の声、聞こえてる?」
「う、ん……」
「気持ちよすぎて、とろけちゃった?」
「ん……ほしせんせが、そ、な……」
「俺がなに?」
「おれ好みの、Domだったなんて、しらなか……」
疲れてしまったのか、安心してしまったのか、とろんとしていた陽はそのまま眠りに落ちた。お仕置きとご褒美を同時にやるなんて意味が分からないことを、性急にやりすぎたかもしれない。
Playを始めた頃、それまで寝不足でほとんど眠れていなかった枢のほうが満たされ過ぎて、先に寝落ちすることが多かった。だから初めて、Playのあとに陽のこんな無防備な姿を見られたのだ。
『Playのあとは一緒に寝ましょうか。星先生がよく眠れるおまじないです』
彼の言うように、陽とパートナーになってから初めて深い眠りにつけるようになった。深い夜が訪れて、白く柔い朝が来るのが楽しみになったのは、Playをした日の朝は隣に彼がいるから。
「おれ好みって、本当ですか?朝霧先生……」
彼が言いかけた言葉に、少しくらい自惚れてもいいのだろうか?
自分が陽を『特別』だと思っているように、自分も彼にとって『特別』になれる可能性があるのなら、これほど嬉しいことはない。
「…ていうか、ちょっといじわるなPlayが好きなの、えろすぎですよ……」
陽が眠ってしまったのでPlayは強制終了だが、枢は眠っている彼の体をぎゅっと抱きしめる。そのまま寝室に連れていくと、陽も無意識なのか枢の背中に腕を回して抱きついてきたので、枢も抱きしめ直して目を瞑った。
陽の体温がじわりと体の中に溶けてくるかのようで、自分の中に陽がいるような感覚に、ひどく安心する。今までよくこの体温を知らずに生きてこられたなと不思議に思うほど、ぴったりとパズルのピースがはまるような感覚。
「……運命なんてないと思うけど、あなたとはそうなのかもって…そう言ったら朝霧先生は笑いますか……?」
閉じられた瞼にキスをして。
「おやすみ」と呟いた声が、夢の中にいる陽にも届くといいのだけれど。
145
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
愛されSubは尽くしたい
リミル
BL
【Dom/Subユニバース】
玩具メーカーの取締役開発部長Dom(37)×元子役の大学生Sub(20)
かつて天才子役として名を馳せていた天使 汐は、収録中にSub drop(サブドロップ)に陥り、生死の境をさまよう。
不安定になっていた汐を救ったのは、スーツ姿の男だった。
素性や名前も知らない。でも、優しく撫でて「いい子」だと言ってくれた記憶は残っている。
父親の紹介で、自身の欲求を満たしてくれるDomを頼るものの、誰も彼も汐をひたすらに甘やかしてくる。こんなにも尽くしたい気持ちがあるのに。
ある夜、通っているサロンで不正にCommand(コマンド)を使われ、心身ともにダメージを負った汐を助けたのは、年上の男だ。
それは偶然にも15年前、瀕死の汐を救った相手──深見 誠吾だった。
運命的な出会いに、「恋人にもパートナーにもなって欲しい」と求めるも、深見にきっぱりと断られてしまい──!?
一筋縄ではいかない17才差の、再会から始まるラブ!
Illust » 41x様
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる