上 下
27 / 70
第5章

しおりを挟む



乙織との電話中、がぶっと指を噛んでくる陽の様子に思わず舌なめずりする。
こういう関係になっていなかったら陽が睨んでくる様子は怖いなと思っただろうが、今の状況では彼を可愛いと言わずなんと表現したらいいのだろう。

陽が睨みをきかせても、今は子猫が威嚇しているようにしか見えないのだ。自分の頭も目も、大分おかしくなっていると思っているけれど。

「……久しぶりに二人でご飯行く?」
慧至けいしも会いたいって言ってるから都合が合えば三人でもいい?』
「それはもちろん」
『えっと、じゃあ予約は次の日曜日の11時くらいでどう?私そのあと半休だから』
「了解。11時っと……楽しみにしてる」

抗議したのに電話を切らない枢にしびれを切らして、陽は枢の指をあむあむ噛んでいる。その様子があまりにも構ってほしくて拗ねている猫ちゃんすぎて、その可愛らしさに心臓が握りつぶされそうだった。

そこでふと、彼は『ご褒美』を欲していたり構ってほしいわけではないかもしれない、という考えが頭をよぎる。陽が枢の指を噛みだしたのは『乙織』の名前を出してからだ。彼に姉の存在を話したことがあったか忘れたが、話していたとしても名前まで知らないだろう。

これはもしかして、嫉妬かも――?

確証は持てないがそう思うとあまりにも陽のことが愛おしくなり、枢は口元に笑みを浮かべた。まさか陽の嫉妬を1日に2回も見られるとは思わなかったのだ。ただ、嫉妬したからと言って電話の邪魔をする悪い子のSubには、少しお仕置きが必要かもしれない。

「んぅ……っ」
「けほっ。あぁ、いや、風邪じゃないよ。最近乾燥してるから、そのせいかも」

指を噛んでいる陽の舌を掴んで、指先を彼の唾液で濡らす。そのまま彼の口内をぐるりと掻き回し、分厚い舌をまるで性器のように前後に扱くと甘い声が漏れた。ぐちゅぐちゅ、唾液のせいで結構な水音がするので時折咳払いをして誤魔化しているが、ごくりと生唾を飲み込んだ音だけはどうしても誤魔化せない。

床にぺたんと座り込んだまま、手も床について枢にされるがまま口内を犯されている陽を見て、思わず舌なめずりする。頬を赤くして、うるうると瞳に水分の膜を張りながらとろけている陽は、やっぱり意外とM気質だ。そんな彼を見ると意地悪心が働いて舌を引っ張ると、粘り気のある半透明な唾液がぽたり、カーペットに落ちてシミを作る。

「……あぁ、うん、それじゃ次の日曜日にね」

乙織に陽の存在がバレずに電話を切り、スマホを遠くへ追いやった。顔を赤くしている陽の姿を見て、浄化されたはずの黒い感情がまた別の意味で顔を出す。そんな黒い感情が枢自身を『Dom』として支配しようとしていた。

「ヒナ、〈Roll寝転がって〉」

ソファの上をぽんぽん叩いて合図すると、口内を好き勝手にまさぐられていた陽は何の反論もせずにソファの上に仰向けに寝転がる。ご褒美の意味で頭を撫でると、健気な陽はその手にすり寄った。

「〈Attract誘惑して〉」
「え…かなめ……?」
「〈Attract俺を誘って〉、ヒナ」

2回目は比較的強めにコマンドを出すと、陽の体がびくりと震える。オーバーサイズのTシャツから覗く細い脚をすり合わせ、何かを期待している陽はやっとの思いで枢の腕を掴んで、自身の胸元に引き寄せた。

「おねがい、かなめ…もっと触って、おれだけ見て、ご褒美のキス、いっぱいしてほし……」
「……それを全部待ちきれなくて噛んだ悪い子は誰ですか?」
「ごめん、でも、だって……枢がいじわるするのが悪いじゃん…」
「この状況で俺のせいにするなんて、躾がなってないですね?俺のSubは本当に態度がでかいなぁ……」

最初にパートナーの話を持ちかけた時の陽は『目一杯甘やかされたいSub』だと言っていたが、今の顔では説得力がない。本当は甘やかすだけではなくて、意地悪されることを望んでいる彼。寝転がして、誘惑させて、躾がなってないと怒って見せればとろとろにとろけていた瞳の中に、赤色のハートが宿った。

あぁ、すごい。狂う。狂わされる。
一度堕ちたら、もう戻ってこれなくなる。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...