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第5章
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しおりを挟む乙織との電話中、がぶっと指を噛んでくる陽の様子に思わず舌なめずりする。
こういう関係になっていなかったら陽が睨んでくる様子は怖いなと思っただろうが、今の状況では彼を可愛いと言わずなんと表現したらいいのだろう。
陽が睨みをきかせても、今は子猫が威嚇しているようにしか見えないのだ。自分の頭も目も、大分おかしくなっていると思っているけれど。
「……久しぶりに二人でご飯行く?」
『慧至も会いたいって言ってるから都合が合えば三人でもいい?』
「それはもちろん」
『えっと、じゃあ予約は次の日曜日の11時くらいでどう?私そのあと半休だから』
「了解。11時っと……楽しみにしてる」
抗議したのに電話を切らない枢にしびれを切らして、陽は枢の指をあむあむ噛んでいる。その様子があまりにも構ってほしくて拗ねている猫ちゃんすぎて、その可愛らしさに心臓が握りつぶされそうだった。
そこでふと、彼は『ご褒美』を欲していたり構ってほしいわけではないかもしれない、という考えが頭をよぎる。陽が枢の指を噛みだしたのは『乙織』の名前を出してからだ。彼に姉の存在を話したことがあったか忘れたが、話していたとしても名前まで知らないだろう。
これはもしかして、嫉妬かも――?
確証は持てないがそう思うとあまりにも陽のことが愛おしくなり、枢は口元に笑みを浮かべた。まさか陽の嫉妬を1日に2回も見られるとは思わなかったのだ。ただ、嫉妬したからと言って電話の邪魔をする悪い子のSubには、少しお仕置きが必要かもしれない。
「んぅ……っ」
「けほっ。あぁ、いや、風邪じゃないよ。最近乾燥してるから、そのせいかも」
指を噛んでいる陽の舌を掴んで、指先を彼の唾液で濡らす。そのまま彼の口内をぐるりと掻き回し、分厚い舌をまるで性器のように前後に扱くと甘い声が漏れた。ぐちゅぐちゅ、唾液のせいで結構な水音がするので時折咳払いをして誤魔化しているが、ごくりと生唾を飲み込んだ音だけはどうしても誤魔化せない。
床にぺたんと座り込んだまま、手も床について枢にされるがまま口内を犯されている陽を見て、思わず舌なめずりする。頬を赤くして、うるうると瞳に水分の膜を張りながらとろけている陽は、やっぱり意外とM気質だ。そんな彼を見ると意地悪心が働いて舌を引っ張ると、粘り気のある半透明な唾液がぽたり、カーペットに落ちてシミを作る。
「……あぁ、うん、それじゃ次の日曜日にね」
乙織に陽の存在がバレずに電話を切り、スマホを遠くへ追いやった。顔を赤くしている陽の姿を見て、浄化されたはずの黒い感情がまた別の意味で顔を出す。そんな黒い感情が枢自身を『Dom』として支配しようとしていた。
「ヒナ、〈Roll〉」
ソファの上をぽんぽん叩いて合図すると、口内を好き勝手にまさぐられていた陽は何の反論もせずにソファの上に仰向けに寝転がる。ご褒美の意味で頭を撫でると、健気な陽はその手にすり寄った。
「〈Attract〉」
「え…かなめ……?」
「〈Attract〉、ヒナ」
2回目は比較的強めにコマンドを出すと、陽の体がびくりと震える。オーバーサイズのTシャツから覗く細い脚をすり合わせ、何かを期待している陽はやっとの思いで枢の腕を掴んで、自身の胸元に引き寄せた。
「おねがい、かなめ…もっと触って、おれだけ見て、ご褒美のキス、いっぱいしてほし……」
「……それを全部待ちきれなくて噛んだ悪い子は誰ですか?」
「ごめん、でも、だって……枢がいじわるするのが悪いじゃん…」
「この状況で俺のせいにするなんて、躾がなってないですね?俺のSubは本当に態度がでかいなぁ……」
最初にパートナーの話を持ちかけた時の陽は『目一杯甘やかされたいSub』だと言っていたが、今の顔では説得力がない。本当は甘やかすだけではなくて、意地悪されることを望んでいる彼。寝転がして、誘惑させて、躾がなってないと怒って見せればとろとろにとろけていた瞳の中に、赤色のハートが宿った。
あぁ、すごい。狂う。狂わされる。
一度堕ちたら、もう戻ってこれなくなる。
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