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20 密談
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カフェでノア達を降ろし、所定の馬車止めから戻ってみるとそこにはレイチェルしかいなかった。
「申し訳ございません、お一人にしてしまって」
「別にいいわ。いてもどうせつまらなさそうな顔をしているだけですもの、あの方」
「コリンス伯爵令嬢、本日はお願いがあって参りました」
「何かしら。内容によってはきけるかもしれない。でも、期待はしないでいただきたいわ」
「…はい。実はわたしに友人であるレイチェルと話す機会を与えてはいただけないでしょうか」
「友人のレイチェル?」
「はい。図書館で会うだけのわたしの友人のレイチェルと」
「ふふ、それは出来そうよ、ロイ。わたしもどうしてあなたがここにいるのか知りたいもの」
ロイは自分が侯爵家の使用人であることや、本来は御者ではなくノアの従者であることなどをレイチェルに説明した。そして、今日ここへやって来た本当の目的も。
「いつもノア様が来るだけで、わたしが侯爵邸へ行くことがないのはそういう理由だったのね」
「二人とも侯爵邸にいるから、ニアミスを避けるためだろうね」
「ありがとう、ロイ、教えてくれて。でも、いいの?話してしまって。聞いてしまった上でこんなことを言うのは何だけど、わたしにはそうまでしてもらう理由がないわ」
「理由、それは僕が優先すべきは友人だからさ。侯爵家はたまたま働いている場所に過ぎない」
「ありがとう。それに、友人と言ってくれてありがとう。実はさっきもそう言われて嬉しかったの。わたし、友人と呼べる人がいなかったから」
「僕も友人と呼べる人は君くらいしかいないよ。だから、君の力になりたい。教えて、君が本当はどうしたいかを」
「分かった。じゃあ、わたしは友人であるロイに心の内を漏らすわね。だけど、無理に力になる必要はないわ。わたしも友人は大切にしたいから」
二人は笑みを浮かべながら頷きあった。
レイチェルの本音という名の希望は簡単なものだった。伯爵家を出たい、それだけだった。侯爵夫人になりたいとも、ノアの寵愛を得たいとも思っていない。
「本当は結婚なんてしないで伯爵家を出たかったの。でも、侯爵家へ嫁ぐという商品になった以上前のように簡単に邸を抜け出すことも出来なくなってしまった。これじゃあ、家を出た後の働き口探しも出来ないわ」
「君の容姿では、街で働けば簡単に伯爵家から探し出されてしまうと思うよ」
「そうかしら。でも、見つかってしまったら直ぐにでも今度は厳重な監視の元、次の嫁ぎ先に売られるだけだわ。一度逃げた相手を侯爵家は引き取らないだろうから、金持ちの後妻とか特別な性癖を持つ男性に売られるってとこね」
レイチェルは自分の置かれている状況を冷静に理解していた。伯爵にとって大切な商品になった以上、監視されるのは当然だ。ただ、自分の容姿を全く理解していなかったようだが。
「ねえ、レイチェル、家を出ることは手伝えるよ。早めに侯爵邸に来ることになると思うけどね」
「どういうこと?」
「考えがあるんだ、聞いた上で判断して欲しい。話に乗るか否かを」
「申し訳ございません、お一人にしてしまって」
「別にいいわ。いてもどうせつまらなさそうな顔をしているだけですもの、あの方」
「コリンス伯爵令嬢、本日はお願いがあって参りました」
「何かしら。内容によってはきけるかもしれない。でも、期待はしないでいただきたいわ」
「…はい。実はわたしに友人であるレイチェルと話す機会を与えてはいただけないでしょうか」
「友人のレイチェル?」
「はい。図書館で会うだけのわたしの友人のレイチェルと」
「ふふ、それは出来そうよ、ロイ。わたしもどうしてあなたがここにいるのか知りたいもの」
ロイは自分が侯爵家の使用人であることや、本来は御者ではなくノアの従者であることなどをレイチェルに説明した。そして、今日ここへやって来た本当の目的も。
「いつもノア様が来るだけで、わたしが侯爵邸へ行くことがないのはそういう理由だったのね」
「二人とも侯爵邸にいるから、ニアミスを避けるためだろうね」
「ありがとう、ロイ、教えてくれて。でも、いいの?話してしまって。聞いてしまった上でこんなことを言うのは何だけど、わたしにはそうまでしてもらう理由がないわ」
「理由、それは僕が優先すべきは友人だからさ。侯爵家はたまたま働いている場所に過ぎない」
「ありがとう。それに、友人と言ってくれてありがとう。実はさっきもそう言われて嬉しかったの。わたし、友人と呼べる人がいなかったから」
「僕も友人と呼べる人は君くらいしかいないよ。だから、君の力になりたい。教えて、君が本当はどうしたいかを」
「分かった。じゃあ、わたしは友人であるロイに心の内を漏らすわね。だけど、無理に力になる必要はないわ。わたしも友人は大切にしたいから」
二人は笑みを浮かべながら頷きあった。
レイチェルの本音という名の希望は簡単なものだった。伯爵家を出たい、それだけだった。侯爵夫人になりたいとも、ノアの寵愛を得たいとも思っていない。
「本当は結婚なんてしないで伯爵家を出たかったの。でも、侯爵家へ嫁ぐという商品になった以上前のように簡単に邸を抜け出すことも出来なくなってしまった。これじゃあ、家を出た後の働き口探しも出来ないわ」
「君の容姿では、街で働けば簡単に伯爵家から探し出されてしまうと思うよ」
「そうかしら。でも、見つかってしまったら直ぐにでも今度は厳重な監視の元、次の嫁ぎ先に売られるだけだわ。一度逃げた相手を侯爵家は引き取らないだろうから、金持ちの後妻とか特別な性癖を持つ男性に売られるってとこね」
レイチェルは自分の置かれている状況を冷静に理解していた。伯爵にとって大切な商品になった以上、監視されるのは当然だ。ただ、自分の容姿を全く理解していなかったようだが。
「ねえ、レイチェル、家を出ることは手伝えるよ。早めに侯爵邸に来ることになると思うけどね」
「どういうこと?」
「考えがあるんだ、聞いた上で判断して欲しい。話に乗るか否かを」
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