年に一度の旦那様

１９ 再会

その日、ロイは予定通りに宝飾店へ向かった。ノアが愛人二人のご機嫌取り用の装飾品を買う為に。
二人の愛人にはそろぞれ違う宝石が付いたネックレスを見繕うと、ノアはロイに後のことを任せ馬車へ戻っていった。

「ご主人、依頼した物とこちらのネックレスを合わせた合計額の請求書をお願いします。その際、品目は一つにして下さい」
宝飾店は購入代金さえ貰えれば問題ない。しかも、それなりの金額を使ってくれた客へはちょっとした頼み事くらいサービスの一貫だ。店主は良い笑顔でロイに頷いた。

「このネックレスだけは包むのではなく目立たない巾着のような袋に入れてもらえませんか」
「この小さい布の袋でどうですか？」
「はい、それでお願いします」

ロイが袋に入れるようお願いしたネックレスはアナベルのものでも、ナタリアのものでもない。レイチェル用のものだった。袋に入れられたネックレスだけをポケットにしまうと、ロイは他の三つの包みをもって馬車へ戻っていった。


伯爵邸に到着するとそこには外出の支度を終わらせたレイチェルが執事と共にノアを出迎えた。
「レイチェル嬢、本日はこちらをどうぞ」

姿や身のこなしだけ見ていれば、輝かんばかりのノアがレイチェルへ贈り物を渡す。すると、ロイの予想通り執事が『お部屋へ届けておきます』と言ってレイチェルの手からその贈り物を預かっていった。

婚約者へのプレゼントならばその場で開けてもらって喜んでもらうのが筋だろうが、そんなことを気にしていないノアは執事の取った行動にも何も感じていない。楽しい時間へと心が急いているノアにはレイチェルが開ける時間も喜ぶ時間も不要ということだ。
全てがロイの予想通り。

そんなロイにも予想出来なかったことがある。それは、レイチェルの表情。ロイを視界に入れた時、レイチェルがどんな表情を浮かべてしまうのか全く想像出来なかったのだ。

しかし、考えようによっては一番予想すべきだった表情をレイチェルはした。無表情という。