目が覚めたら、関西弁黒髪八重歯のイケメンが見下ろしていて欲しい人生でした。

あきら

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世界がぶわーっと広がった

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 拝啓、お母さん。部屋にあった大量の薄い本は、おかげさまで随分と片付いてきました。主に、クローゼット様に追いやって目につかなくしただけですけど。問題は、仕舞いきれなかった残りの本をどこに隠すかですよ。
 ベッドの下…は、悪気なく覗き込んできそうですしね。何となく。

 「みなさん初めまして、こんにちはー!桐島大雅、17歳やで!えぇなぁ。この挨拶、一回やってみたかったんや。今日は新学期に出来た友達と、何百回目か分からん海遊館にやって来たでー!」





 みなさん、こんにちは。神崎宙斗、18歳ホモです。今日は、新学期になってから初めての休日。前に約束した通り、大雅くんと一緒に海遊館にやって参りました次第です。いま僕が厄介になっているのが「弁天町」近くのマンションなので、何とたったの二駅。本気出したら、スープも冷まさずに来れそうな距離ですよ。
 そして結局、大雅くん一人で動画は撮影する事になりました。撮影してんの、この僕ですけどね。安易に投稿して、バズりでもしたらどうしよう…。顔だけはいいから、多分バズるんでしょうけどね。何だか、推しの地下アイドルが晴れて全国に認められそうな複雑な心境だ。
 まぁでも、いいです。撮影を始めてから…って言うか海遊館に来てから、いつにも増して楽しそうですから。本当に水族館が、お魚が大好きなんだなぁ。テンション高くはしゃいでる彼を見ているだけで、こちらも心がなごみます。あと、私服可愛い。アップにするとよく分かりますが、この腹チラだか背中チラは神の領域だと思うんですよ。
 本当はこの後、約束通り勉強を教えて差し上げたかった所ですが…。今日は、バイトのシフトが入っているんですって。専門学校の費用を貯めるとかで、けっこう忙しくしてるんですよ彼。だから本当に海遊館を一周するだけで、現地解散の予定となった次第です。
 「そう言えば、バイト先はどこなんですか?まさか、やっぱりそれも海遊館だったり?」
 「うぅ、それなー。実はほんの一時期、ここのグッズ売り場に勤めてたんよな。だけど気に入らん客とガチの殴り合いして、バイト先としては出禁食らってもうた。だから普通に、駅前のマ○ドナルドな」
 「何と、まぁ…。施設そのものに、出禁食らわなくて良かったですね。だけどそんな事があっても通い続けるなんて、大雅くんは本当にお魚が大好きなんですね…」
 「おうよ。たまーに内緒で、お魚さんにエサやらせてもうたりはしてるで。おっ。喋ってる間に、ジンベエザメの水槽に到着やでー!あれがつい最近(※当時)来はった、オスの海くん。もう一匹は、オレがまだガキの頃に来はったメスの遊ちゃんやね。ちなみに哺乳類でなく魚類である以上、数え方としては『匹』もしくは『尾』が正しいで」
 「勉強になります…。って、何だかこれじゃあべこべですね。子供の頃の大雅くん、何だか想像出来ちゃうなぁ。新しいサメがやって来て、さぞかし目をキラッキラさせてたんでしょうね」
 「まぁなー。実はその一ヶ月ほど前、水槽にいた二匹が相次いで亡くなってしまったんやね。海遊館にジンベエザメがいなくなるのは、開業以来の異例の事態。だから、待望の新しいサメさんがやって来た時には…。こう、冗談抜きで世界がぶわーっと広がったって言うか」
 「大雅くん…。もしかして、その時の体験が元で飼育員さんを目指すようになったとか?」
 「いやぁ?オレ、もっと昔から色んな水族館行っとるから。どこの飼育員さんも、けっこう筋肉質でイケメンさん揃いなんよな。特に昔オレに優しくしてくれた、海遊館のサンタダイバーさんなんか…ぐへへ」
 ???
 イケメン?筋肉質?何だか、話が妙な方向に転がってきたぞ。大雅くん。多少、予想しなくはなかったですけど…。もしかして、彼。
 「あれ?何か、話が合えへんな。うちゅるんに、言うてへんかったっけ?ホモやけど、オレ」
 「(呼び方、安定しねぇな…。って、それどころじゃなくて)え、ええええ?一言だって、聞いてませんよ、そんなの」
 「きっと、聞かれへんかったからやねー。でも、言わんでも分かってるんかと思ってた。隠してても、分かるで。うちゅるんも、ホモやろ?」
 「そ、それはそうなんですけど…。今は、僕の話をしてるんじゃなくってですね」
 「そうやったな、オレの話やったな。そもそも水泳を始めたのだって、着替えの時に友達のチ○コを見るのが目的やったから」
 「年齢制限を設けてないので、穏やかな表現でお願いしますね!?ってかそんな不順な動機で、よくスポーツ推薦を勝ち取るまでに上達しましたね…」
 うぅ。でも自分自身も昔、だいたい同じ理由でスイミングスクールに通っていたのであまり強くは言えません。
 「ははは。好きこそ、ものの上手なれってなー。おぉ。喋っとる間に、いつの間にかこんな時間や。そろそろ、バイト行かな。ここからは、うちゅるん一人で回ってくれへん?ごめんな、中途半端で。この埋め合わせは、いつか必ずするから。この先、哲学を極めはったみたいな顔のアザラシさんがおって可愛いで!そしたらなー」
 そう言って、これまた嵐のように慌ただしく去って行きました。すでに慣れっこになってはいましたが、今回ばかりは脳の情報処理が追いつかない…。いや、だからこそ一旦別れる事になって良かったのかも。
 ちなみに、「哲学を極めた」らしいアザラシさんはすぐに分かりました(可愛い)。そして未だ混乱覚めやらぬ頭を抱え、グッズ売り場に佇んでいた時の事です。「ここが、大雅くんの以前の仕事場かぁ…」なんて一人で考えておりますと。
 「あ、あのぉ…。チラッと、遠目で見えたんですけど。さっき、大雅く…。桐島くんと、館内を回ってはった人ですよね?お友達、とかですか…?」
 と、売り場の女店員さんから声をかけられました。一瞬、逆ナンかと身を構えましたが…。深刻そうな表情からは、どうにもそんな雰囲気を感じとれない。BL作品の常で、存在感がいやにフワッフワと稀薄な女性でしたが…。なかなかの美人さんであったと、記憶しております。
 「は、はい。彼とは、つい最近知り合ったばかりですが…。色々と、仲良くして頂いてます。今日は、バイトだって先に帰ってしまったんですけどね。以前の、同僚さんですか?」
 「えぇ、その…。あんまり、大きな声では言えないんですけど。あたし以前、ストーカーまがいのお客さんに付きまとわれてて…。帰り道でしつこく絡まれてた所に、大雅くんが助けてくれはったんです。結局そのまま、ロクにお礼も出来ない内に退職しちゃって…。ちょいちょい、館の方には来てるって聞いてました。あの…。良ければ、あたしに代わってお礼を言っていてもらえませんか?とっても、助かりましたって」

 拝啓、お母さん。新学期に出来た友達は、生き方がとっても破天荒な奴です。だけど、彼は…。誰か他人のために、動く事が出来る。怒る事が出来る。とってもいい奴だと、この僕は思うのです。
 それが友人である僕には、とっても誇らしくて鼻が高い。そして何だかこの胸までもが高鳴ってくるのは、何かの勘違いから来るときめきなんでしょうか…。
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