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第十三章 巨星に挑む

親友として

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「アナはワタクシを救おうとしていました……」

 ところが、続けられた話はアナスタシアらしい内容だった。

 しかし、ランカスタ公爵を脅迫していた話と繋がらない。

「どういうことだ?」

「簡単なことですの。アナは随分と前からワタクシがキャサリン・デンバーの誕生パーティーで暗殺される予知をしていたのです。でも、ワタクシを助ける手立てがなかったらしいですわ。小国の枢機卿では介入できなかったと聞いています」

 なるほどとルークは頷いている。

 隣国に渡ってしまった彼女はどうにかして予知した未来を変えたかったのだと思う。それこそ手段を選べなかったのだと。

「お父様に暗殺者の依頼料を出させ、更には治水や飢饉対策も願っていました。四年も前の話です。のちにそれらは現実となり、アナのおかげで多くが救われました」

 アナスタシアがスラムで慈善行為をしていたのは聞いている。

 しかし、それ以外でも彼女は人知れず世界のために動いていたらしい。

「アナらしいな。ランカスタ公爵を脅すところまで全部……」

「ワタクシは唯一無二の親友だと思っておりますの。あの子はワタクシを裏切らない。それどころかいつも寄り添ってくれます。本来なら殿下がワタクシにすべきことを、あの子は請け負ってくれているのですわ」

 胸にチクリと刺さる話だった。

 イセリナに寄り添っていたのは婚約者である自身ではなく、アナスタシアであったのだと。

「なもので、ワタクシはあの子が幸せになることを願っているのです。しかし、同時に負けたくないとも考えておりますの。どうすればいいのでしょうかね?」

 ルークは思った。

 イセリナもまた同じなのだと。置かれた状況に困惑しつつも、抜け出せないでいる。公爵令嬢であったからこそ。

「イセリナ、悪いがもう少し俺と付き合ってくれ。俺はアナを幸せにしたい」

 ルークはこの関係を続ける決断をしていた。

 なぜなら、アナスタシア次第でイセリナが必要となる。アナスタシアが充分な地位を確立しなければ、妾にするしか共に過ごせない。

 イセリナ以外のご令嬢を選んだ場合、アナスタシアを妾とするのは困難が予想できたからだ。

「殿下は惨いお人ですわ。ワタクシには他にも選択肢があるというのに。面倒な王太子妃を逃れつつも、楽に生きられる選択肢が……」

 明言は避けていたけれど、内容は伝わっている。

 もしも婚約破棄が成立したのであれば、イセリナはセシルに選ばれる可能性が残っていたからだ。

「結果的に悪いようにはしない。君が望む楽な人生くらい補償させてもらうさ。今しばらく俺の婚約者でいて欲しい」

 嘆息しながらもイセリナは頷いていた。

 加えて、現状が本当に不思議だと思う。自分自身が他者のために身を犠牲にするなんて。たとえそれが親友のためだろうと。

「仕方ないですわね……」

 そう言いながらも笑顔を作る。

 不思議には感じていたけれど、アナのためになるのであれば嬉しく感じる。

 無茶ばかりする親友がようやく幸せになれるのだと。
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