青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十四章 迫る闇の中で

もう一度だけでも

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 私はソレスティア王城を訪れ、モルディン大臣と面会していました。

 気が重いのですけど、既に私は髭の案を受け入れているので仕方ありません。

「やあ、どうされました?」

 忙しい中、時間を割いてもらって悪いわね。

 本当にタフなご老人だこと。

「すみません。実をいうとランカスタ公爵の説得に失敗したばかりか、言いくるめられてしまいました……」

 とりあえず、頭を下げておこう。

 私の意見は公爵家の存続から、一転して廃爵を求めるものになっていたのですし。

「やはりメルヴィス公爵家は廃爵すべきだと思うのです。王子殿下の暗殺未遂は遠縁まで遡る罰に相当します。メルヴィス公爵家を許すことは王家の求心力低下にも繋がる恐れがあるかと……」

 実際は私が成り上がりたいだけなんだけど、それらしい理由を口にしています。

「ランカスタ公爵は議案の変更を行わないそうです。公爵家の跡地は王家の直轄地とする案を提出すると話していました」

「なるほど、流石に同意されませんでしたか。公爵家の存続は王国にとって悪い話ではないのですけれど、罰則的な側面を考えると甘過ぎますしね」

 モルディン大臣も駄目元だったのかしらね。

 聞けば彼もできればという希望でしかなかったみたい。

「しかし、王国の直轄地ですか……。セシル殿下を宛がうおつもりですかね?」

「ええ、まあ。ルークは第一王子ですし、ソレスティア王城に留まるべきでしょう。加えてセシル殿下は支持者を失うことになりますから……」

 メルヴィス公爵家の廃爵はセシルにまで影響を及ぼす。

 王太子として名乗りを挙げたとして、もう彼を支持する強大な力は失われているのですから。

「承知しました。しかし、ランカスタ公爵はよほどアナスタシア様を気に入られているのですね。此度の件ではっきりと伝わりましたよ」

 なぜか気持ちの悪いことを話すモルディン大臣。私が髭のお気に入りとかやめてくれない?

 どこまでも私を利用しているだけじゃないの?

「そうですかね?」

「お気付きでありませんか? 王家の直轄地とすること。全て貴方様のためではありませんか?」

 あら? そこまで見透かされていたのね。

 やはりモルディン大臣は曲者だわ。隠し事などできそうにもありません。

「まあ、その通りです。でも、ランカスタ公爵は私を利用しようとしているだけです。加えて私も公爵を利用しています。持ちつ持たれつの関係ですよ」

 私の返答にモルディン大臣は笑っています。

 言い訳っぽく聞こえてしまったのかな。

「仕方ありません。議案を提出されるのはランカスタ公爵です。彼は公爵として王国のために動くはず。議長でしかない私にはこれ以上の意見などできません」

「そういえば、私の陞爵とか無理だとも言っていました。モルディン大臣は私を煽っただけですか?」

 ここで私は疑問を口にする。

 一体陞爵の話は何だったのかと。

「煽ったつもりはありませんよ。実際に私はガゼル陛下にその話をしています。北の大地を纏めるにはもっと力が必要なのだと」

「では却下されたのでしょうか?」

「いえいえ、前向きに検討いただいていますよ。ただ、ランカスタ公爵が考えられていますように功績が足りない。せめて火竜退治の折りに授爵していただいていたのなら、今頃は伯爵位を与えられたのですけれど」

 どうやら私が褒美を拒絶したことが原因みたい。

 全てを引っくるめると子爵までしか与えられないという話ですね。

 段階を踏んでいかないことには他の貴族たちから不満が噴出しますし。

「本当は地位も名誉もいらないのですけどね……」

「アナスタシア様、どうか前を向いてください。貴方様はセントローゼスを照らす輝き。私はそう考えております。いずれは国政に携わっていただきたいとも……」

 過大な評価だね。イセリナであった頃でも私は大人しくしていたのです。

 今の立場で国政に口を出すなんて不可能だと思います。


 少し疑問を覚える。良い機会なので聞いてみたくなりました。

「王太子妃に相応しい身分とはどれくらいでしょう……」

 やはり恥ずかしい。モルディン大臣は恐らく私の気持ちに気付いている。

 そのような質問は私が望んでいることを明確にしているのですから。

 グルリと視線を回したあと、モルディン大臣は口にしていました。

「セントローゼス王国の長い歴史において、王太子妃の身分が考慮されなかったことが何度かございます。平民であったり、下位貴族であったり。まあですが、いつの世もそういった婚姻は問題ごとの火種でしたね。禁書庫が禁書庫たる所以の一つといえましょう」

 返答は歴史的に同じような事例があったという話。

 恐らく王家に平民の血が流れていることは秘匿されていたのでしょう。

「ずっと昔の話ですよね? 今はどうですか?」

「王太子妃になると、かなり遡ることになります。けれど、世間に認められし女性であれば、その限りではなかったりします」

 俄に希望を抱く。

 ゴクリと唾を呑んだあと、私は問いを返しています。

「どのような女性ですか……?」

「教皇であったり、賢者であったり。あとは光の聖女ですかね……」

 何だか全て当て嵌まる気がするけれど、どれも少しずつ異なってもいる。

 異国の枢機卿であったし、既に亡国なのです。魔法に関しては賢者並だと思いますけれど、世間の認識とは異なる。

 加えて私は火竜の聖女として有名ですが、実をいうとアウローラ聖教会はエリカを光の聖女として認定しており、私の場合はただの二つ名にすぎません。

「私には何もありませんね……」

 ポツリと漏らす。逃げてばかりいた私には何もありません。

 最近まで王太子妃を目標にしていなかったのです。自分が傷つかないように隠れていた私が王国において地位を得られるはずもない。

「アナスタシア様、北の大地にて求心力を高めてください。それこそが貴方様の希望を叶える道です。ルーク殿下の迷いを絶つためにも」

 分かってるけど、あと一年もない。

 貴院長を諦めた私が成り上がるには、北部での地位を確立する以外にないみたいです。

「でも、手に入れるわ……」

 私は改めて誓っていました。

 友人二人との争奪戦がありましたけれど、最後には私が願いを叶えるのだと。


 あの愛をもう一度――――。
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