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第十三章 巨星に挑む

過去の記憶を

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 ソレスティア王城の一角にある王宮殿。豪華な客間に二人の影があった。

 一人はベッドに横たわるイセリナであり、ベッド脇に座っているのはルーク第一王子である。

「そうですか。メルヴィス公爵とは面識などございませんのに、とんだとばっちりを受けてしまいましたわ」

 イセリナは随分と回復を見せているようで、弱気な彼女ではなくなっているらしい。

「そう言うが、君がエスフォレストに行くと言い出したんだぞ? 俺の方がとばっちりじゃないか?」

「殿下がついてこなければ、狙われなかったと思いますの!」

 ルークとしてもイセリナのせいにするつもりはなかったが、自分の責任とされてしまうなんて思いもしないことだ。

 かといって、アナスタシアの所領に行ってみたいと考えていたのも事実であり、やはり責任は少なからずあるようにも感じている。

「すまん。俺は色々と君に迷惑をかけている……」

 今も婚約者のままだ。

 長引くほどに後々の問題が大きくなっていくのは明らかであったけれど、ルークは先送りにしている。

 こんな今も取り繕うように見舞いへと来ている自分が情けなかった。

「殿下はもうお決めになられたご様子。あの子も吹っ切れたみたいです。一度、白紙に戻しては?」

 思わぬ話がイセリナから向けられていた。

 流石に驚いてしまう。自身が切り出せないことを察知されたのか、或いはイセリナはまだ気弱なままなのか。

 ルークには疑問しか思い浮かばない。

「どうして? ランカスタ公爵が反対するだろう?」

 この期に及んでルークは体裁を取り繕う。

 自身はまだ婚約者を続ける意志があるかのように。

「アナがメルヴィス公爵をやり込めたのであれば安心ですわ。お父様は国務大臣にさえ指名されたなら、何も問題ないのですから」

 そういえばそうであった。モルディン大臣はクレアフィール公爵家の立候補を既に取り下げている。

 国務大臣の席は事実上、メルヴィス公爵とランカスタ公爵との争いとなっていたのだ。

 次回の査問会においてメルヴィス公爵家の廃爵が議論されるのだから、ランカスタ公爵が国務大臣として指名されるはず。

「君はそれで構わないのか?」

 ルークとしては願ったり叶ったりであったけれど、婚約破棄に至れない理由が彼にはあった。

 なぜなら、意中の人は子爵でしかないからだ。

 公爵令嬢との婚約を破棄して、彼女を選ぶなんて真似ができるはずもない。

「俺はずっとアナが好きだった。彼女以外には何も欲しくない……」

 何を言っているのかと自分でも思う。今はイセリナの見舞いへと来ているというのに。

「俺はもう死んでしまいたいよ。こんなに辛いのなら……」

 終いには愚痴まで口を衝く。

 だが、それは本心であった。自身が不甲斐ないばかりにイセリナにまで迷惑をかけている。

 全てのしがらみを断ち切るには人生を終わらせるしかないように思う。

「殿下、少しはアナを見習ったらどうです? あの子の人生と比べれば、どれほど楽な人生ですの? わたくし、初めてアナと会った折り、あの子の殺意に驚きましたわ。あれはまさしく揺るがない意志でした。明確にアナはお父様を殺そうとしておりましたの。信じる未来のために……」

 とんでもない話が聞かされていた。

 今では想像もできない。アナスタシアがランカスタ公爵を殺そうとしていたなんて。

「どういう状況なんだよ?」

「お父様はミスリル鉱脈があると騙されてサルバディール皇国へと行ったのです。旅行という名目でしたので、ワタクシは強制参加でしたの」

 語られるのは恐らく四年前の話。いざこざの末にアナスタシアが隣国へと亡命した折りの話に違いない。

「驚きましたわ。アナは旅行中の不幸な事故としてお父様を殺すつもりだったのです。協力しないのであれば、拷問の末に殺すと話していました」

「いやいや、どうしてそんな話になる? アナは何をしようとしていたんだ?」

 アナスタシアであれば手段を選ばないとルーク自身も考えていたけれど、ランカスタ公爵を脅していたなんて信じられない。

 彼女は他人のために自己犠牲をする人だと考えていたから、自身の目的を達成するために他者を脅迫するなんて。

 しかし、ルークは知らされている。

 今も昔も変わらぬアナスタシアの行動原理を。

「アナはワタクシを救おうとしていました……」
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