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81.この地で侯爵夫人として頑張ります
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「侯爵様。娘が大変な失礼をしてしまったようで。今一度、教育し直しますので、それでお許しいただけるでしょうか?」
「とんでもない。教育など不要です」
「そういうわけにはまいりませんわ。ミシェル。明日は鍛錬前に私のお借りしている部屋にいらっしゃい」
「はいぃ……」
「返事はしっかり!」
「はい!!!」
ハルが青い顔で「うわぁ、ミシェル何をしたのさ」と零しておりました。
何を……そうですね。
あれは結婚式後にこの屋敷に戻ってすぐのこと。
私は言いましたとも。
あなたを愛するつもりはございません、と。
自分の発言を覚えていられない私ですが、ジンが改めて私の伝えた言葉を繰り返してくれたおかげで、はっきり覚えてしまっています。
あなたを愛するつもりはない。
私のことは気にしなくていい。
初夜だからと気遣うな。
そのようなことを私は言ったらしいですよ。
おほほ……また改めて申し訳なく思いますね。それに恥ずかしくてなりません。
「ジン、それは災難だったな」
「あぁ、だからこそ。ミシェルに余計なことを吹き込んだあやつらを、私も鍛えてやろうと思ったのだ」
「君はどちらかというと、ミシェルと遊んでいたいだけに見えたけど?あの子たちに構っていたか?」
「ミシェルがいて、何故あんなやつらに構っていられるんだ?」
「いやいや、言っていることが無茶苦茶だからね?その調子じゃ、君はあの子たちに何もしないまま終わってしまうよ?」
「それはいかんな。私がどれだけ絶望したか、その身体に刻み、分からせねばならん。別メニューで拷問するか?」
「言っちゃだめな言葉が出ているから~」
なんということでしょう。
「ごめんなさい。私のせいでジンがそこまで絶望していたなんて」
「あぁ、ミシェル。すまない。違う。君は何も悪くないんだ──」
「いえ、悪いのは私です。ジンは本当に優しいですね。あんなことを言った私を怒らないなんて」
「それはミシェルだから──」
そこでお母さまが、くすっと笑ったのです。
「大丈夫そうですね」
こんなに嬉しそうなお母さまのお顔を見たのは……ありますね。
私がなんとか令嬢言葉を身に付けたあの日、お母さまはこのように優しいお顔で笑っていました。
それから……あの部屋からこっそり出てきた私を見掛けたお母さまも、今と同じお顔をしていたのです。
あのときは、こっそり部屋に忍び込んだことがばれて怒られる心配をしていたと思うのですが、お母さまは何も言わず、見なかったことにしてくださいました。
そしてお母さまはこの優しい笑顔で言われます。
「ミシェル。あなたはわたくしたちの娘ですよ」
「はい!」
この日は夜遅くまで、お母さまが私の両親について話してくださいました。
お母さまの本当の娘でないことは残念に思っていたのですが、私の実の両親もまた領地のために生きていた素晴らしい方々だと分かり、私はその夜はじめて自信をもってベッドに入ることが出来たのです。
もうこの血を言い訳には出来ません。
ですが私は領地を出て嫁いだ身。
これからは、侯爵夫人として侯爵領の皆様のためになるよう頑張りましょう。
今夜はただ共に寝ようと言ったジンが、隣で私を見ていました。
夫婦ですから、共に寝るものだと思っていたのですが、今夜だけなのかしら?
「今夜だけではない。夫婦だからずっとだ」
「はい。侯爵夫人として頑張りますね」
「あぁ、私も侯爵として、それからいい夫になれるよう、頑張ろう」
そうでした。
いい妻としても頑張らなければなりませんね。
「ミシェル。やはり今夜も──」
と呼び掛けられた後から記憶がございません。
気が付いたら朝で、深く眠れたようで身体がすっきりしていました。
さぁ、鍛錬に……はっ。お母さまに呼ばれているのでした。
急がねば!
「ミシェル。よく眠れ──」
「急ぎますので!」
後ほど改めて会ったジンは、何故か目の下にクマが出来ていて、手合わせのときには昨日よりキレのない動きをしておりました。
人と一緒では眠れない人だったりするのかしら?
それなら別々に──。
「ミシェル。私は稀に見る健康体だからな!」
叫ぶように言わなくても、もう分かっておりますとも。
妻ですから、旦那様のお身体は心配ですけれどね?
「くはっ」
胸を押さえて蹲ったときには、本気で新しいお医者さまを探すようシシィに依頼するところでした。
シシィが後から本当に問題ないと言っておりましたので、信じることに致します。
何故でしょうね。シシィが言うと、それが正しいと思えるのです。
やはり素晴らしい目力を持っているからかしら?
「とんでもない。教育など不要です」
「そういうわけにはまいりませんわ。ミシェル。明日は鍛錬前に私のお借りしている部屋にいらっしゃい」
「はいぃ……」
「返事はしっかり!」
「はい!!!」
ハルが青い顔で「うわぁ、ミシェル何をしたのさ」と零しておりました。
何を……そうですね。
あれは結婚式後にこの屋敷に戻ってすぐのこと。
私は言いましたとも。
あなたを愛するつもりはございません、と。
自分の発言を覚えていられない私ですが、ジンが改めて私の伝えた言葉を繰り返してくれたおかげで、はっきり覚えてしまっています。
あなたを愛するつもりはない。
私のことは気にしなくていい。
初夜だからと気遣うな。
そのようなことを私は言ったらしいですよ。
おほほ……また改めて申し訳なく思いますね。それに恥ずかしくてなりません。
「ジン、それは災難だったな」
「あぁ、だからこそ。ミシェルに余計なことを吹き込んだあやつらを、私も鍛えてやろうと思ったのだ」
「君はどちらかというと、ミシェルと遊んでいたいだけに見えたけど?あの子たちに構っていたか?」
「ミシェルがいて、何故あんなやつらに構っていられるんだ?」
「いやいや、言っていることが無茶苦茶だからね?その調子じゃ、君はあの子たちに何もしないまま終わってしまうよ?」
「それはいかんな。私がどれだけ絶望したか、その身体に刻み、分からせねばならん。別メニューで拷問するか?」
「言っちゃだめな言葉が出ているから~」
なんということでしょう。
「ごめんなさい。私のせいでジンがそこまで絶望していたなんて」
「あぁ、ミシェル。すまない。違う。君は何も悪くないんだ──」
「いえ、悪いのは私です。ジンは本当に優しいですね。あんなことを言った私を怒らないなんて」
「それはミシェルだから──」
そこでお母さまが、くすっと笑ったのです。
「大丈夫そうですね」
こんなに嬉しそうなお母さまのお顔を見たのは……ありますね。
私がなんとか令嬢言葉を身に付けたあの日、お母さまはこのように優しいお顔で笑っていました。
それから……あの部屋からこっそり出てきた私を見掛けたお母さまも、今と同じお顔をしていたのです。
あのときは、こっそり部屋に忍び込んだことがばれて怒られる心配をしていたと思うのですが、お母さまは何も言わず、見なかったことにしてくださいました。
そしてお母さまはこの優しい笑顔で言われます。
「ミシェル。あなたはわたくしたちの娘ですよ」
「はい!」
この日は夜遅くまで、お母さまが私の両親について話してくださいました。
お母さまの本当の娘でないことは残念に思っていたのですが、私の実の両親もまた領地のために生きていた素晴らしい方々だと分かり、私はその夜はじめて自信をもってベッドに入ることが出来たのです。
もうこの血を言い訳には出来ません。
ですが私は領地を出て嫁いだ身。
これからは、侯爵夫人として侯爵領の皆様のためになるよう頑張りましょう。
今夜はただ共に寝ようと言ったジンが、隣で私を見ていました。
夫婦ですから、共に寝るものだと思っていたのですが、今夜だけなのかしら?
「今夜だけではない。夫婦だからずっとだ」
「はい。侯爵夫人として頑張りますね」
「あぁ、私も侯爵として、それからいい夫になれるよう、頑張ろう」
そうでした。
いい妻としても頑張らなければなりませんね。
「ミシェル。やはり今夜も──」
と呼び掛けられた後から記憶がございません。
気が付いたら朝で、深く眠れたようで身体がすっきりしていました。
さぁ、鍛錬に……はっ。お母さまに呼ばれているのでした。
急がねば!
「ミシェル。よく眠れ──」
「急ぎますので!」
後ほど改めて会ったジンは、何故か目の下にクマが出来ていて、手合わせのときには昨日よりキレのない動きをしておりました。
人と一緒では眠れない人だったりするのかしら?
それなら別々に──。
「ミシェル。私は稀に見る健康体だからな!」
叫ぶように言わなくても、もう分かっておりますとも。
妻ですから、旦那様のお身体は心配ですけれどね?
「くはっ」
胸を押さえて蹲ったときには、本気で新しいお医者さまを探すようシシィに依頼するところでした。
シシィが後から本当に問題ないと言っておりましたので、信じることに致します。
何故でしょうね。シシィが言うと、それが正しいと思えるのです。
やはり素晴らしい目力を持っているからかしら?
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