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80.失言はしてから気付いても遅いのです
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お母さまのお顔色にほんのりと滲む険のある感じは、しばらくの間消えませんでした。
お父さま、お母さまを苛立たせるのはやめてくださいませといつもアルと一緒に伝えていたではありませんか。
「そんなに手放すのが嫌なら、早く領内の誰かと結婚させればよかったものを」
吐き捨てるようにお母さまが言われた直後です。
「それは困ります!」
強い口調でそう言ったのは、ジンでした。
お母さまはそんなジンに微笑みます。
「困ると言われても知りませんわ。別にそちらとお約束していたわけではございませんし、わたくしとて娘が側にいた方が嬉しくてよ?」
「くっ。しかし今はもう私の妻ですので!」
「分かっておりましてよ。何かない限り、送り返していただかなくて結構」
「それならばご安心を。未来永劫何も問題は起こりません」
「おほほ。それは分かりませんことよ?」
「いいえ、分かります。ミシェルはこの地で私の妻であり続ける──」
何かあったら返送……。
それはつまり何かあったら離縁されるということかしら?
それは何もないように、私も頑張らなければなりませんね。
あら。いつの間にか、お母さまもジンも、そしてハルも私を見ていました。
「ミシェル、お父さまに会いたいですか?」
すぐに答えられません。
冷たいと言われそうですが……特に何も感じませんでした。
「うふふ。でしょうね。ほほほ」
「ただお父さまに泣かないでと伝えて欲しいとは思います。それから私が何も気にしていないことも」
「確かに伝えておきましょう。泣くことに関しては、わたくしがどうにかしておくから、あなたは気にしなくていいわ」
それは……お父さま、ごめんなさい。
私はお母さまのご意思を尊重します。
私が酷い顔をしていたのか、お母さまは柔らかく微笑んで言いました。
「ミシェル。結婚して今はどうですか?」
今は……どうかしら?
夫となる人に想い人がいる件は勘違いでしたし。
結婚相手はジンでしたし。
夫人としてのお仕事もこちらで出来るようですし。
領地にいるときよりも、人のお役に立てるような気がしていますが……どうなのでしょう?
「あなたの気持ちでいいのよ」
「私の……」
「嫌な想いをしておりませんか?」
隣でジンがごくりと喉を鳴らしておりました。
プリンのおかわりがそんなに待ち遠し──また、ごほんと咳をしましたね。大丈夫かしら?
「ミシェル?結婚して嫌な想いをしているのですか?」
「とんでもないです。料理は美味しいですし、お菓子も美味しいですし。侍女たちも素晴らしくて、このようにラベンダー入りのお茶も出してくださいますし。それにドレスも羽のように──は、そうだわ。お母さま、このドレス、そちらの領内の女性たちに喜ばれるのではないかしら?とても軽くて動きやすいのです!」
お母さまはひとつ頷き、「ドレスは後で確認するわ」と言いまして、さらに続けて。
「では、夫となった方に対してはどう想っていますか?」
「夫となった……ジンは、稀にみる健康体なのにちょっと心配なところはありますけれど。手合わせをすると楽しいし。それにとても優しいです。最初に噂を信じて酷いことを言ってしまったのですが、それでも怒ることもなく、私を妻として受け入れてくださって──」
「お待ちなさい。噂ですって?あなたまた、あれだけ重ねられた侍女たちの忠言をひとつも聞いていなかったのね?」
はうっ。これは雲行きが怪しくなってきました。
お父さま、お母さまを苛立たせるのはやめてくださいませといつもアルと一緒に伝えていたではありませんか。
「そんなに手放すのが嫌なら、早く領内の誰かと結婚させればよかったものを」
吐き捨てるようにお母さまが言われた直後です。
「それは困ります!」
強い口調でそう言ったのは、ジンでした。
お母さまはそんなジンに微笑みます。
「困ると言われても知りませんわ。別にそちらとお約束していたわけではございませんし、わたくしとて娘が側にいた方が嬉しくてよ?」
「くっ。しかし今はもう私の妻ですので!」
「分かっておりましてよ。何かない限り、送り返していただかなくて結構」
「それならばご安心を。未来永劫何も問題は起こりません」
「おほほ。それは分かりませんことよ?」
「いいえ、分かります。ミシェルはこの地で私の妻であり続ける──」
何かあったら返送……。
それはつまり何かあったら離縁されるということかしら?
それは何もないように、私も頑張らなければなりませんね。
あら。いつの間にか、お母さまもジンも、そしてハルも私を見ていました。
「ミシェル、お父さまに会いたいですか?」
すぐに答えられません。
冷たいと言われそうですが……特に何も感じませんでした。
「うふふ。でしょうね。ほほほ」
「ただお父さまに泣かないでと伝えて欲しいとは思います。それから私が何も気にしていないことも」
「確かに伝えておきましょう。泣くことに関しては、わたくしがどうにかしておくから、あなたは気にしなくていいわ」
それは……お父さま、ごめんなさい。
私はお母さまのご意思を尊重します。
私が酷い顔をしていたのか、お母さまは柔らかく微笑んで言いました。
「ミシェル。結婚して今はどうですか?」
今は……どうかしら?
夫となる人に想い人がいる件は勘違いでしたし。
結婚相手はジンでしたし。
夫人としてのお仕事もこちらで出来るようですし。
領地にいるときよりも、人のお役に立てるような気がしていますが……どうなのでしょう?
「あなたの気持ちでいいのよ」
「私の……」
「嫌な想いをしておりませんか?」
隣でジンがごくりと喉を鳴らしておりました。
プリンのおかわりがそんなに待ち遠し──また、ごほんと咳をしましたね。大丈夫かしら?
「ミシェル?結婚して嫌な想いをしているのですか?」
「とんでもないです。料理は美味しいですし、お菓子も美味しいですし。侍女たちも素晴らしくて、このようにラベンダー入りのお茶も出してくださいますし。それにドレスも羽のように──は、そうだわ。お母さま、このドレス、そちらの領内の女性たちに喜ばれるのではないかしら?とても軽くて動きやすいのです!」
お母さまはひとつ頷き、「ドレスは後で確認するわ」と言いまして、さらに続けて。
「では、夫となった方に対してはどう想っていますか?」
「夫となった……ジンは、稀にみる健康体なのにちょっと心配なところはありますけれど。手合わせをすると楽しいし。それにとても優しいです。最初に噂を信じて酷いことを言ってしまったのですが、それでも怒ることもなく、私を妻として受け入れてくださって──」
「お待ちなさい。噂ですって?あなたまた、あれだけ重ねられた侍女たちの忠言をひとつも聞いていなかったのね?」
はうっ。これは雲行きが怪しくなってきました。
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