愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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挿話 (ガブリエルside)

出会い② (挿話……ガブリエルside)

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父に連れられるがままに、ガブリエルは婚約者となった「妖精のように」愛らしいという少女の屋敷を訪ねた。

(……城みたいだな)

どことなく夢見心地な白亜の壁が印象的な屋敷。大きさは自分の住まう屋敷と変わりないが、雰囲気が全く違う。ガブリエルの屋敷は、騎士団長である父の趣味嗜好からどことなく堅牢で、優美さはあまりない。対照的にこうして今見上げている屋敷は、優美を極め、妖精が住んでいても何も可笑しくはないと思わせる幻想性があった。

「お、なんだ。ガブリエル。いつになく緊張しているみたいだな」

ニヤニヤと笑う父に対して、ガブリエルは「別に」と素気なく答える。子供にしては愛想のない態度だが、赤ん坊の頃からガブリエルをよく知るセディスはその僅かな表情の変化から、彼の感情が僅かながらにでも読み取れるようだった。

「まあ、今日は顔合わせだけだからな。無理に話す必要もないさ」

とセディスが安心させるように声を掛けたところで「良く来てくださいました」と邸宅の玄関から品のある紳士と美しい女性が登場する。

「いいえ、お出迎え痛み入ります。ガブリエル、挨拶しなさい。お前の婚約者となった方のお父上様とお母上様だ」

即されて、ガブリエルは静かに前へ出ると深く頭を下げ「お初にお目に掛かります。ガブリエル・カイテスと申します」と幼いながらに落ち着いた挨拶をして見せた。これには紳士と夫人も目を見張って「なるほど、立派なご子息でいらっしゃる」と嬉しそうに目を細め、続けて彼らは自らの名を名乗り、公爵夫妻であることを教えてくれる。

「すまないが、娘はあまり日差しに強くなくてね。中に入ってから挨拶させよう」

紳士に招かれて、ガブリエルは父と共に邸宅に足を踏み入れた。好奇心が湧いて僅かに視線を巡らせるガブリエルに公爵夫妻は顔を見合わせて笑う。

「とても理知的な瞳をお持ちでいらっしゃる。きっとロメリアもあなた様のことが好きになるわ」

公爵夫人に微笑まれて、ガブリエルはどう答えていいのか分からず、かと言って何も答えないのは失礼かと思い「……はい」と返事をした。玄関ホールから大階段をあがり、しばらく廊下を歩く。己の屋敷の廊下は歩くたびにコツコツと固い音がするが、この廊下には深紅の絨毯が敷かれているため、足音が吸収されてどことなくガブリエルを落ち着かない気持ちにさせた。

「さあ、着きましたよ。……ロメリア、婚約者殿が参られたよ」

公爵が一際大きな扉の前に立って扉を叩くと中から鈴を転がすような声音で「いいわよ」と返事をする声が聞こえた。

(……以前にあった子の声に似てる)

そう思ったが、やはり違うような気もした。以前にあった少女の声音はひたすらに優しく穏やかで、決して高慢さの滲むものではなかった……はずだ。遠い昔のことで僅かにしか覚えていられなかったことが悔やまれる。

「さあ、どうぞ……お入りになってください」

大きな扉が押し広げられると、ガブリエルの目の前に毛色の変わった空間が開けた。
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