愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

文字の大きさ
34 / 79
挿話 (ガブリエルside)

出会い② (挿話……ガブリエルside)

しおりを挟む
父に連れられるがままに、ガブリエルは婚約者となった「妖精のように」愛らしいという少女の屋敷を訪ねた。

(……城みたいだな)

どことなく夢見心地な白亜の壁が印象的な屋敷。大きさは自分の住まう屋敷と変わりないが、雰囲気が全く違う。ガブリエルの屋敷は、騎士団長である父の趣味嗜好からどことなく堅牢で、優美さはあまりない。対照的にこうして今見上げている屋敷は、優美を極め、妖精が住んでいても何も可笑しくはないと思わせる幻想性があった。

「お、なんだ。ガブリエル。いつになく緊張しているみたいだな」

ニヤニヤと笑う父に対して、ガブリエルは「別に」と素気なく答える。子供にしては愛想のない態度だが、赤ん坊の頃からガブリエルをよく知るセディスはその僅かな表情の変化から、彼の感情が僅かながらにでも読み取れるようだった。

「まあ、今日は顔合わせだけだからな。無理に話す必要もないさ」

とセディスが安心させるように声を掛けたところで「良く来てくださいました」と邸宅の玄関から品のある紳士と美しい女性が登場する。

「いいえ、お出迎え痛み入ります。ガブリエル、挨拶しなさい。お前の婚約者となった方のお父上様とお母上様だ」

即されて、ガブリエルは静かに前へ出ると深く頭を下げ「お初にお目に掛かります。ガブリエル・カイテスと申します」と幼いながらに落ち着いた挨拶をして見せた。これには紳士と夫人も目を見張って「なるほど、立派なご子息でいらっしゃる」と嬉しそうに目を細め、続けて彼らは自らの名を名乗り、公爵夫妻であることを教えてくれる。

「すまないが、娘はあまり日差しに強くなくてね。中に入ってから挨拶させよう」

紳士に招かれて、ガブリエルは父と共に邸宅に足を踏み入れた。好奇心が湧いて僅かに視線を巡らせるガブリエルに公爵夫妻は顔を見合わせて笑う。

「とても理知的な瞳をお持ちでいらっしゃる。きっとロメリアもあなた様のことが好きになるわ」

公爵夫人に微笑まれて、ガブリエルはどう答えていいのか分からず、かと言って何も答えないのは失礼かと思い「……はい」と返事をした。玄関ホールから大階段をあがり、しばらく廊下を歩く。己の屋敷の廊下は歩くたびにコツコツと固い音がするが、この廊下には深紅の絨毯が敷かれているため、足音が吸収されてどことなくガブリエルを落ち着かない気持ちにさせた。

「さあ、着きましたよ。……ロメリア、婚約者殿が参られたよ」

公爵が一際大きな扉の前に立って扉を叩くと中から鈴を転がすような声音で「いいわよ」と返事をする声が聞こえた。

(……以前にあった子の声に似てる)

そう思ったが、やはり違うような気もした。以前にあった少女の声音はひたすらに優しく穏やかで、決して高慢さの滲むものではなかった……はずだ。遠い昔のことで僅かにしか覚えていられなかったことが悔やまれる。

「さあ、どうぞ……お入りになってください」

大きな扉が押し広げられると、ガブリエルの目の前に毛色の変わった空間が開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

処理中です...