愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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挿話 (ガブリエルside)

出会い (挿話……ガブリエルside)

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(なんで勝手に結婚する相手を決められなければいけないんだ?)

幼いガブリエルは、父の大きく無骨な手に導かれながら、みずからに課せられた大いなる理不尽に対して自問自答を繰り返していた。

つい昨日「お前に婚約者が出来たよ。明日会いに行こう」と父に告げられたガブリエルは、そもそも婚約者というものが何であるのかが分からずに問いかけた。

「婚約者とはなんですか」
「結婚を約束した者……と言うことだな。たぶん」
「約束などしていません」
「え……あぁ、うん。大人同士で決めたからな」

ガブリエルの父であり、騎士団長でもあるセディスは大雑把な人間だった。

彼が「大人同士で決めたから」と言われて納得出来る子供がいると思うのは、普段ガブリエルの物分りが良すぎるせいだろう。

しかし、今回ばかりはガブリエルも納得しなかった。

「婚約者なんていらない」
「まぁ、まぁ。それを言うのはさ、会ってからでもいいんじゃないか?」

とは言うものの、一度決まった婚約者が変わることは滅多にあることではない。

「婚約破棄」と口にするのは非常に簡単な事だが、そこには互いの家の存続や、財産、地位など多くのものが伸し掛かってくる。

だが、幼いガブリエルにそれを説明したところで実際それらの重みを理解するのは難しいだろう、とセディスは考えた。さて、ではどう納得してもらうのがいいのか。

うんうんと唸り始める父をガブリエルはじーっと見つめる。

しばらくすると、セディスはなにやら閃いた様子で目を輝かせ、ずぃとガブリエルの肩を掴んだ。


「ガブリエル」

爛々としているのに真剣さを帯びるその瞳に、ガブリエルは僅かに居住まいを正す。

「なんでしょうか」

問いかけると、セディスは大きく息を吸って……そして吐いた。

「その婚約者殿は……ものすごく可愛いぞ」
「……」

ガブリエルはこれ以上ないほど白けた目で己の父を見た。

可愛いからなんだと言うのだ。

「えー……なんでそんな白けた目で見るんだ。ものすごく可愛い子が結婚してくれるんだぞ?嬉しくないのか?」
「嬉しくない」

ガブリエルはきっぱりと答えた。

「そう言うな。会ってみないと分からないだろう?本当に、妖精みたいに可愛い子だ」

「妖精みたい」と、そんな例えを聞いて以前のガブリエルなら「そんな人がいるものか」と考えていたに違いない。

だが、ガブリエルの脳裏に、以前王宮の庭園で泣いていた1人の少女が浮かんだ。

1人では立てなかったようで、手を差し出すと可憐な声音で「ありがとう」と言った。

(あの子は……確かに妖精みたいだったな)

そんな事を思い出して、ガブリエルはついに「会ってみる」と言葉にした。

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