愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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諦めきれない

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押し寄せる孤独に、どんどん追い込まれていく。

夜は涙が止まらなくなり、昼間は手足が鉛のように動かなくなる。日の光が嫌いになり、寂しいのに人と関わりたくなくなる。

心配をかけたくないのに、心配をかけてしまう。

自分の願いと、行動が反比例していく現実に耐えきれず、ロメリアはいよいよ自室の外に出られなくなっていった。

両親以外の訪問を受け入れられず、口数は減っていく。

天真爛漫で、自信満々だったロメリアはもうどこにもいない。

肌はより、白く。華奢な身体はより華奢に。爛々と輝いていた水色の瞳からは生気が失われていく。

(もう、このまま……屋敷に閉じこもって何もしないのがいいかもしれない)  

そうだ。それがいいのではなかろうか。少なくともこの屋敷から出なければ、何も危険なことにはならない。マリエンヌとガブリエルが仲睦まじくしている場面を見て嫉妬することもないし、貴族の策略に乗せられることもない。

(ずっと、このまま……)

寝台から上半身を起こし、窓に手を伸ばす。窓から見える景色は運命を呪う自分の気持ちとは裏腹に、鮮やかな緑と高く空色に区切られて、遠く飛ぶ鳥が自由に旋回する様子を見せてくる。


(……自由を諦める。外へは出ない)


それだけが、唯一運命に対抗する手段なのではなかろうか。

自室に引き籠もることによってロメリアの、ロメリアとしての役割を放棄する。

(……ガブリエルのことも諦める)

結論から言えば、きっとロメリアが役割を負わなくても、ガブリエルとマリエンヌがくっつきさえすれば、物語は盛り上がりに欠けるとしてもハッピーエンド。めでたし、めでたし。で終わるはずだ。

「2人がくっつけば……そうすれば……この、苦痛から開放される……」

自分に言い聞かせるように、何度も吐いてきた言葉。

だけれど、この言葉を口にするたびに、脳裏に蘇るのは自分でも嫌になるほど……ガブリエルのことばかりだった。

幼い頃からずっと、好きで……大好きで。垣間見える優しさが嬉しくて、握ってくれる掌が温かくて。

「……っ……むり……嫌よ、やっぱり」

目の前に翳した掌にボロボロと熱い涙が落ちていく。最近は毎晩泣いているのに、それでも涙は枯れたりしない。早く枯れてくれればいいのに。そうしたら涙に縋って、これ以上惨めな気持ちになったりはしないのに。

「ふ……ぅ……っ」

こんなに苦しいのなら、好きになんてならなければ良かった。所詮、物語の悪役令嬢。運命の2人のためだけに生み出された存在。

ガブリエルに手を伸ばしても、絶対に届かない。

絶対に。
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