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嘲笑

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「……ロメリア、今日もガブリエル様から花が届きましたよ」

母が差し出した植木鉢からは、白く淡い燐光が放たれていた。

とても珍しい「白雪の花」だ。


極北にしか咲かないその花は、芳しき香りこそしないものの、細かい光を帯びた冷気を花全体に纏わりつかせているため華やかに見えて、見る者の目を楽しませる。

「白雪の花」の前は、「璃桃の花」だった。

玻璃細工のように透明で、桃の花と同じ花弁の形をしている故にそのような名が与えられたと聞く。

どちらも、なかなかのことでは手に入らない貴重な花で、寿命はとても短い。

だが、鉢植えの中に詰められた土は特別なもののようで、窓辺にはまだ璃桃の花が瑞々しく咲いていた。

「……『今日も会えませんか』と聞いて、この花を託して帰って行かれたわ」

切なげな表情を浮かべる母に、ロメリアはただ首を振るだけだった。

ガブリエルが見舞いに来ても部屋に通さないようにしていた。毎度対応する母にも「彼は何か言っていた?」とも聞かない。

彼に対する好意がなくなったのではない。

顔を合わせれば、自分がどうなってしまうのか分からないから、訪問を拒否している。

表向きは「まだ体調が万全ではないから」ということになっているが、本当はそうではない。

(怖くて堪らないのよ……)

大好きなのに、彼と添い遂げることが出来ない。その可能性を、彼と顔を合わせながら突きつけられて耐えきる自信が全くない。

精神力も体力も、すでに大半削られてしまっている。特に精神力は自らで削っているようなものだから、より辛い。

「……ねぇ、ロメリア。ガブリエル様のことが嫌いになったの?」

最近の公爵夫人は、ロメリアに負担をかけないように質問をしないようにしていた。精神状態も安定せず日に日に窶れていく愛娘に考える負担すら与えたくないからだ。

しかし、騎士になったばかりで忙しいはずのガブリエルが3日に一度は花を届けにくる姿を見て憐れに思ったのか。どうしてもそれだけは聞いておこうと考えたらしかった。

「……分からないわ」

分からないわけがない。

本当は、もの凄く好きなのだ。こうして頻繁に見舞いに来てくれる彼の心がとても嬉しいと思う。

ただ、同時に申し訳なく思う。

分かっている。

運命から逃れたいのなら、彼が訪ねてきたタイミングで言えば良いだけなのだ。

──……あなたのことが嫌いだから、婚約を破棄しましょう。

そう言えばいい。彼の元まで駆けて行って言えば良い。きっとそうすればガブリエルはもう来ない。自らを完全に拒絶する人間の元を訪れるほど彼は強引な人間ではない。

そう分かっている。

分かっているのに、自分はそうしない。

拒絶の言葉を、ガブリエルの顔を見ながら言える自信がない。彼への未練がまだ残っている。運命なんか知らないわよ!と癇癪を起こす自分がいる。

色んな感情がせめぎ合って、結局自分がどうしたいのか分からない。

分からないから、母の問い対しても「分からない」と答える。

(分からない、分からない……分からないばっかりで……うんざりするわ)

ロメリアは自らを嘲笑するように薄く笑った。


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