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運命の足音
足音は真上に
しおりを挟む高らかなラッパの音が鳴る。さあっと風がふくと、百合の香りが会場内を満たした。会場内には百合など飾られていない。
その香りは厳かに登場した王女──マリエンヌの髪飾りから香ってくるようだった。
──……神聖であり、清浄。清らかなる百合こそ、厳かな場に相応しい。
(……え?)
誰かが、脳内で語った……気がした。ひっそり周囲を見渡すものの、誰も何も反応していない。気のせいか。
そう思って、もう1度前を向く。
──マリエンヌの正面扉から、彼は現れた。深海の瞳が、マリエンヌを心ごと射抜く。
(……気のせいじゃない。誰かが、話している。でもどうして?……私にしか聞こえないの?)
ロメリアの脳内で響く声の通りに、ガブリエルが背後の大扉から入場した。清廉な騎士の装束を身に纏う彼は本当に凛々しく美しい。青い瞳も鋭さを増し、騎士と呼ばれるに相応しいいで立ちをしている。そんな彼の姿を横目に眺めていた貴族達は、感嘆の息を漏らした。
──……これほどまでに美しい人があろうか。筆舌に尽くしがたいとは、まさにこのこと。貴族達から漏れる感嘆の息は彼の周りに渦を巻くようにある魅力に飲み込まれていく。
「……っ」
ふいに、頭痛が起こった。そして脳裏に浮かぶ無数の活字。そして、この世界とは違う……どこかの世界。
(……見覚えが、ある)
見覚えがないのに、その世界に見覚えがある。不思議な感覚に襲われていると、脳裏に浮かんだその風景は瞬く間に飛散して、再び無数の活字が頭の中を埋め尽くす。
──彼は、マリエンヌと視線を交わすと、僅かに口角を上げた。マリエンヌにだけ向けられたその優しい微笑みに、気づいた者は彼女以外には誰もいない。マリエンヌ以外で、彼の無表情の奥にある感情を読み取ることの出来る者などいないのだ。
ぶるりと、寒気のようなものが背筋に走った。
真横を通っていくガブリエルのその表情を、ロメリアは恐ろしくて見ることが出来なかった。
ガクガクと、膝が震えだしていた。
脳裏に響く声には絶対的な何かがある。
(だめ……せめて、この式が終わるまでは……倒れるわけにはいかない)
式典の最中に、もし誰かが倒れようものなら、式典それ自体に何か問題があると勘ぐられる可能性がある。この場所は、どう足掻いても王城であり、政と関わりの深い場所だ。下手なことをしてガブリエルの足を引っ張るわけにはいかない。
ロメリアが必死に不快感を抑えている間に儀式は確実に進んでいく。
騎士の証である勲章を与えられ、剣を授かったガブリエルは、王女の手に忠誠の証としてキスを落とした。
その瞬間。
硝子が破れられたような、衝撃音がロメリアの脳を揺らした。
何かが、内側から這い出てくる。
ロメリアの顔からは一気に血の気が引いた。
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