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運命の足音
王都に降り立つ
しおりを挟む久しぶりに見る王都の景観に、ロメリアは馬車の中で、心を踊らせた。
騎士任命式は、国を挙げての式典というわけではない。どちらかと言うと、貴族達の間のみで執り行われる厳かな式典だ。故に国王誕生祭のように、王都が賑わうわけではなかったが、この1年、賑わう街並みの景観と縁遠い生活をしていたロメリアには、人が多く行き交う大通りがやけに色鮮やかに見えて、目を向けずにはいられなかった。
「大丈夫かい、ロメリア」
今日何度目かも分からない父の問に、ロメリアは「大丈夫よ」と呆れを交えて答える。
現に、本当に「大丈夫」だった。ほんの少し前までは寝台に腰掛けていても頭痛に悩まされるのに、昨日から今日にかけて、まるで嘘のようにその痛みが消えてしまった。
まるで神様が、ガブリエルの騎士任命式を見せてくれるためにそうしたかのようだ。祝福されているのかもしれない。
そんな風な希望を抱きながら、ロメリアはガブリエルの凛々しい姿を頭に思い浮かべ、王城にたどり着くまでの間、ずっと王都を行き交う人々の様子を観察し続けた。
王城にたどり着くと、すぐに近衛兵が迎えに来た。
今日は、貴族といえど人が多く出入りする。護衛として出向いた彼らは、式典が行われる会場まで送り届けてくれた。
会場内は、まだ騒がしかった。真ん中に赤い絨毯の敷かれた道。その両側に並べられた椅子。そして正面には大理石の階段とその上に玉座が神々しくそこにある。
「我々は1番前の席だよ」
父に即されて、ロメリアは会場内に一歩踏み出した。途端、ザッと皆の視線が集まる。ロメリアは自分の美貌をよく分かっていたから、全く気にも留めなかった。
──……おお、ロメリア嬢だ。また一段とお美しくなられたのでは?
──……ああ、口惜しや。あんなにも美しい婚約者を持ちながら、ガブリエル殿は王女様付きの騎士になられるという……両手に花とはまさにこのことでは?
(誰が、両手に花ですって?ガブリエルはそんな器用な人じゃないわよ!)
ロメリアは内心でぷんすか怒りながらも、外面だけは平静を装ち、父公爵が歩くあとに続いた。
そして、1番前の席に腰掛ける。
(ガブリエルが騎士に任命されるところをこんなに近くで見られるのだから、見に来て良かった)
例え、ガブリエルを騎士に任命する人間が王女だとしても。
そのことに対して不満を言ってしまっては、この2年間騎士見習いとして修行してきた彼の努力に対してまで不満を抱いていることになってしまう。
だから、ロメリアは気にしないことにした。例え彼が王女付きの騎士になったとして、婚約者である自分にはそんなことは関係ない、と。
あくまで、王女はガブリエルが騎士として守らなければならない相手なだけだ。
ロメリアは、そう自分に言い聞かせ、会場内にガブリエルが訪れるのを待った。
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