愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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2人の距離

癇癪

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「……なぜ、君がここにいる」


ロメリアは驚いて思わず固まってしまった。


ガブリエル自ら問いかけてくることなど、出会ってから両手で数えられる程度しかなかったからだ。

本当に今、目の前にいるのはガブリエルだろうか?

ロメリアはトコトコとガブリエルに近寄って行き「んー?」と首を傾げる。

まるで幼い子供が、知らない大人を目の前にして興味津々にその表情を覗き込むような仕草だ。


「せっかくあなたに会いに来たのに、王女様の用で呼び出されたって聞いたから、ここで暇つぶしをしていただけよ」
「……」

せっかく答えたのに、ガブリエルは何も返事をしない。いつも以上に静かな彼にロメリアは再び首を傾げた。


すると、背後に立つリュダが「ぶはっ」と吹き出す声が聞こえる。

「なんで、笑うのよ!」

ロメリアはガブリエルから視線を外し、頬を膨らませて背後のリュダを睨んだ。するとリュダは軽快な足取りでガブリエルに近づき、その肩に腕を回す。ガブリエルは鬱陶しそうに眉を顰めたが、リュダは構わずに答えをくれた。

「いや、だって、お嬢さんがあんまりにもこいつの質問の意図を読み取れてないからさ」
「どういう意味?」
「こいつが聞きたいのは、どうして俺とこんな人気のない場所にいるのかってことだよ」

なるほど、そういうことか。ロメリアは納得してまた口を開く。

「あなたの顔が見たかったから、リュダにここまで案内してもらっただけよ」
「……男と2人で王宮内を出歩くものではない」

子供を叱るようなその口調に、ロメリアは再び頬を膨らませた。が、言われてみれば確かに安易な行動をしてしまったのかもしれない。

と、反省する気持ちも芽生えたが。


ロメリアはふんっと鼻を鳴らして「せっかく会いに来たのに、王女様のところに行っていたあなたが悪いんじゃないの!」と言葉を吐いて、子供のような癇癪を起こした。

ロメリアだって本当はよく分かっていた。

マリエンヌは王女だ。

彼女ほど地位の高い者に呼ばれたら例え公爵令嬢である婚約者との約束があろうがなかろうが、騎士団長の息子とはいえ、今現在指導を受けているただの騎士見習いであるガブリエルは、出向かなければならない。

ロメリアは勉強が得意ではないし、礼儀作法の師事もサボりがちだが、王族の権威とはいかなるものか。貴族は王族に対してどう接するべきであるのか。そういうことは幼い頃から周囲の貴族達の態度や眼差しから、嫌というほど体感してきた。

だから、ガブリエルがロメリアとの約束ではなく、王女の用のために出向くことは当然であり、正しい選択であったことは確かなのである。

分かっていても、ロメリアはついつい癇癪を起こすことで人に甘えてしまう癖がついてしまっていた。
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