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2人の距離

気にしない

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「どうしたの?」

ロメリアが問い掛けると、リュダはギシギシと油でも指したほうがいいのではと思うほどぎこちない動作で、ロメリアへ視線を送ると「逃げよう」と小さな声で言った。

誰が聞くわけでもないのに、一体どうしてそんな小さな声を出すんだろう。

ロメリアは首を傾げながらも、「逃げよう」と何度も同じ言葉を繰り返すリュダに即されて早々に城壁の石階段を降りた。

「一体どうしたっていうのよ」

いい加減教えるべきだ。とロメリアが非難めいた声音を出すと、リュダは「ガブリエルに気づかれました」と気まずそうに答えた。

まさか、とロメリアは思った。ガブリエルの視力が良いなんて聞いたことがない。

(……ううん、そもそもガブエリルは自分のことを語りたがらないんだから、もしそうだとしても知らなくて当然ね)

妙に納得した様子で冷静なロメリアに、リュダは「どうしてそんな冷静なんですか!」と焦った様子で問いかけてくる。

しかしロメリアにとっては逆にどうしてそんなにリュダが冷静さを欠いているのか分からない。

別にガブリエルに見られたからといってなんだと言うのか。例えリュダと2人でいるところを見られたからと言ってガブリエルは怒るような性質ではない。

もしそんなことで、ガブリエルが妬いてくれるというのなら、ロメリアは苦労しない。

「大丈夫よ」
「何が大丈夫なんですか!」

半べそをかきながら地団駄を踏み、挙げ句膝をついてうなだれるリュダに、ロメリアは仕方なく一緒にしゃがみこんであげて「そんな心配しなくても大丈夫よ」と優しく言葉をかけた。

「ガブリエルは、私のこと好きじゃないもの。あなたも言ってたじゃない。ガブリエルは私のことを全然教えてくれないって」
「あ……そうでした」

と、またしても失礼なリュダにロメリアは「てい!」と軽くその頭に手刀を落す。

「いひゃ!」
「あら、痛くないでしょ」
「な、ななななんで痛くないなんて分かるんですか!」

きゃんきゃんと子犬のように吠えるリュダを見つめながら、ロメリアはくすくすと笑みを零した。

「ほら、立って。もう戻りましょうよ」
「……はい」

戻りたくないのだろう。リュダは殊更丁寧に膝についた草をはたき落としてようやく腰をあげた。


のだが、何故かあげた腰をすぐにまた元に戻してしまった。

もう、一体なんなのだ。

ロメリアが腰に手を当てようとした時、ごく僅かに背後に人の気配を感じた。

「?」

振り返ると、そこには背の高いガブリエルが立っていた。

ここからマリエンヌの庭園までは城壁からの景色を見ても分かる通り、決して近いわけではない。

ロメリアは、本気でガブリエルが瞬間移動でもしたのかと、疑った。
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