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運命の再会より
恋する乙女
しおりを挟む(……なんなのよ、一体)
ロメリアは遠ざかる背中を見ながら、白いドレスの裾をぎゅうと握りこんだ。ガブリエルに触れられた頬が、熱かった。心臓がバクバクとありえない速度で動いている。脳裏に繰り返し過る紺碧の瞳と、ガブリエルの顔が焼き付いたように離れない。
「……ロメリア?あの、大丈夫?」
穏やかな声音に呼ばれて、ロメリアはようやく顔をあげた。マリエンヌ達がいることをすっかり忘れてしまっていた。これはとても不敬なことである。ロメリアは慌てて取り繕って、マリエンヌに向き直った。
「だ、大丈夫ですわ……。全く、動揺なんてしていません」
「……ふふ、そう?」
マリエンヌは優雅に笑った。彼女はロメリアの小さく震える手と、頬に滲む朱色に気づいていた。
「婚約者様──……ガブリエル様と、あなたは仲がいいのね」
「?」
ポツリと呟かれたその言葉を、ロメリアは聞き取れなかった。首を傾げてみせると、マリエンヌは誤魔化すように笑って「会えてよかったですね!」と朗らかに言った。
それにはロメリアも、素直に頷く。
心の底から、ほんの少しでもガブリエルに会えて良かったと思っている。もう1年もの間、会えていなかった大好きな人と言葉を交わすことが出来て、本当によかった。ロメリアは本当に嬉しくて、ここ最近、誰にも見せることのなかった極上の笑顔で笑った。春の妖精。咲き初めの薔薇。そんな言葉を連想したくなるような、そんな笑顔。護衛騎士達からは人知れず感嘆の息が漏れる。
マリエンヌはロメリアのその表情を見て、どこか複雑そうな顔をしながら、一歩前に出ておずおずとした様子で問うた。
「あ、あの……ロメリア。また、その……こちらへいらっしゃいますか?」
「?……はい。本当はお父様に頼んで、ガブリエルのいる訓練所までこっそり連れて行ってもらう予定でしたから、また数日後には」
「それでしたら、あの……その時には、私もご一緒してもいいでしょうか」
マリエンヌの提案を、ロメリアはほんの少し訝しく思った。マリエンヌはこの国の王女だ。だから、ロメリアとわざわざ一緒に来なくても、訓練所が気に入ったのなら、毎日行けるだろう。首を傾げるロメリアに、マリエンヌは慌てた様子で言葉を付け加えた。
「あ……いえ、ロメリアとは気が合いましたし、こんなに屈託なく私と接してくださった方はあまりいないものだから、王城にいらっしゃるならまたぜひ、お話したいと思って」
マリエンヌのその言葉に、ロメリアは納得した。
自分の何がマリエンヌに気に入られたのかはよく分からなかったけれど、それでも王女と良好な関係を築けたのだ。これは、自分が立派な淑女として認められたということなのでは?帰ったらお父様に自慢しよう!とロメリアは少し嬉しくなって、ぱんっと両手を叩き合わせた。
「マリエンヌ様にそう言っていただけて嬉しいですわ!また、お話しに参ります」
ロメリアはガブリエルと会えた嬉しさに心をいっぱいにしていた。だから、気づかなかった。
マリエンヌが、悲痛な想いをその心に押し込めていることを。
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