10 / 79
運命の再会より
恋する乙女
しおりを挟む(……なんなのよ、一体)
ロメリアは遠ざかる背中を見ながら、白いドレスの裾をぎゅうと握りこんだ。ガブリエルに触れられた頬が、熱かった。心臓がバクバクとありえない速度で動いている。脳裏に繰り返し過る紺碧の瞳と、ガブリエルの顔が焼き付いたように離れない。
「……ロメリア?あの、大丈夫?」
穏やかな声音に呼ばれて、ロメリアはようやく顔をあげた。マリエンヌ達がいることをすっかり忘れてしまっていた。これはとても不敬なことである。ロメリアは慌てて取り繕って、マリエンヌに向き直った。
「だ、大丈夫ですわ……。全く、動揺なんてしていません」
「……ふふ、そう?」
マリエンヌは優雅に笑った。彼女はロメリアの小さく震える手と、頬に滲む朱色に気づいていた。
「婚約者様──……ガブリエル様と、あなたは仲がいいのね」
「?」
ポツリと呟かれたその言葉を、ロメリアは聞き取れなかった。首を傾げてみせると、マリエンヌは誤魔化すように笑って「会えてよかったですね!」と朗らかに言った。
それにはロメリアも、素直に頷く。
心の底から、ほんの少しでもガブリエルに会えて良かったと思っている。もう1年もの間、会えていなかった大好きな人と言葉を交わすことが出来て、本当によかった。ロメリアは本当に嬉しくて、ここ最近、誰にも見せることのなかった極上の笑顔で笑った。春の妖精。咲き初めの薔薇。そんな言葉を連想したくなるような、そんな笑顔。護衛騎士達からは人知れず感嘆の息が漏れる。
マリエンヌはロメリアのその表情を見て、どこか複雑そうな顔をしながら、一歩前に出ておずおずとした様子で問うた。
「あ、あの……ロメリア。また、その……こちらへいらっしゃいますか?」
「?……はい。本当はお父様に頼んで、ガブリエルのいる訓練所までこっそり連れて行ってもらう予定でしたから、また数日後には」
「それでしたら、あの……その時には、私もご一緒してもいいでしょうか」
マリエンヌの提案を、ロメリアはほんの少し訝しく思った。マリエンヌはこの国の王女だ。だから、ロメリアとわざわざ一緒に来なくても、訓練所が気に入ったのなら、毎日行けるだろう。首を傾げるロメリアに、マリエンヌは慌てた様子で言葉を付け加えた。
「あ……いえ、ロメリアとは気が合いましたし、こんなに屈託なく私と接してくださった方はあまりいないものだから、王城にいらっしゃるならまたぜひ、お話したいと思って」
マリエンヌのその言葉に、ロメリアは納得した。
自分の何がマリエンヌに気に入られたのかはよく分からなかったけれど、それでも王女と良好な関係を築けたのだ。これは、自分が立派な淑女として認められたということなのでは?帰ったらお父様に自慢しよう!とロメリアは少し嬉しくなって、ぱんっと両手を叩き合わせた。
「マリエンヌ様にそう言っていただけて嬉しいですわ!また、お話しに参ります」
ロメリアはガブリエルと会えた嬉しさに心をいっぱいにしていた。だから、気づかなかった。
マリエンヌが、悲痛な想いをその心に押し込めていることを。
127
お気に入りに追加
5,450
あなたにおすすめの小説
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる