婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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ライレルの馬祭り Ⅰ

美しい蝶

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「変な人ね……」

エドモンドと初めて会った時もこんな風だった気がする。警戒はしていたのだが、彼自身の持つ雰囲気に警戒は解かれて、いつのまにか……今では恋人になっている。

あの頃は今よりも世間知らずだったから、今思えば最初に会った段階で彼に復讐の指南なんてしてもらうべきではなかったのだろうが。

それでも、あの時彼を信頼したから……恋人として短い時間ではあるが、甘く楽しい時間を過ごせている。

だが、それも延々とは続かない。

この一件が片付けば赤の他人に戻るのだ。

「……憂い顔をしていらっしゃる」
「あなたには関係のないことだわ」

あなたのその憂いを私が晴らして差し上げましょう。

とでも言われるのかと身構えたが、男は何に納得したのか頷いて、ひょいと肩をすくめた。

「はい、私には関係ありません」
「……ふっ」

ミレーユは思わず笑ってしまった。あまりにもはっきりとしたもの言い。本当に関係ないと思っているのだろう。それが今までになかった反応で、驚くと同時に面白いと思ってしまった。

「私は何か面白いことを言ったでしょうか」
「ふ……いいえ。ただあなたみたいにレディが落ち込んでいるのに『私には関係ない』と言い切る人なんてなかなかいないと思ったのよ」
「……そうでしょうか」
「そうよ」
「ですが、赤の他人が憂い顔をしていても私に害はありません」
「そうね、その通りだわ」
「ですから、関係ありません」

またはっきりと言い切った彼の言動が可笑しくて、ミレーユは肩を震わせて笑う。

(他人と話してこんなに笑うなんて久しぶりだわ……)

世辞の入った胡散臭い称賛を交えた表面上だけの乾いた会話ではない。

いわゆる普通の会話。

エドモンドと話すのとはまた異なる意味で、ミレーユはクラディスとの会話に少しばかりの安らぎを感じた。

だからと言って、心を許すところまではいかないが。

「さあ、もうお行き」

ミレーユは指先に止まった蝶に声を掛けた。
すると蝶はその言葉を理解したかのように翅を広げて、優雅に花の元へ帰ってゆく。

ミレーユは立ち上がって、クラディスと視線を交わした。

「あなたは、どうしてこんな人気のないところにいらしたの?」
「休憩です。人の多いところは好きですが……ここは花が多く咲く庭園なので、美しい蝶でも見られるかなと。見られてよかったです」

目の前の男が、詩人もどきの胡散臭い貴族であれば「美しい蝶」というのはミレーユのことを指していると考えられるだろうが、クラディスは虫が好きだと言ったし、上手い比喩表現を使える人間でもないと「金貨のように」という表現を使ったことからよく分かっていたから、ミレーユはその言葉を言葉通りに受け取った。
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