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玉座より
暴く
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「それは出来かねるな、カダール侯爵」
と、不穏な空気が一層淀みかけた時、凛とした声音が大広間に響いた。聞き覚えのある声にミレーユは肩をビクリと震わせる。
「エドモンド」
その名を呼んだのは、何と国王だった。しかし国王が名を呼んだのに対して、エドモンドは僅かに微笑むだけで何も答えない。彼の手にはいくつかの黄ばんだ紙が握られていた。彼は王族を前にしても悠々とした足取りで玉座のあるところまでのぼり、黄ばんだ紙をリダルと国王に物怖じなど微塵もせず、手渡す。
「これは……!」
国王は目を細め、カダール侯爵を睨みつけた。一体、彼らが何を見ているのか、公爵は国王に問いかける。
「国王陛下、一体どうなさいましたか」
公爵の問いかけに、国王は気を取り直した風にエドモンドを見仰ぎ、黄ばんだ紙を公爵に見せるように指示する。エドモンドは公爵へ紙を渡した後、懐へ手を突っ込み、ミレーユへあるものを手渡した。
「落としましたね、お嬢さん」
咄嗟に出してしまった手。握りしめた拳を開く。
「……!」
コロンと手の平に転がったのは、玻璃の耳飾り。あの路地で落としてしまったはずのそれ。一体どうしてエドモンドは、これがミレーユのものだと気づいたのか。いよいよ恐ろしくなって、ミレーユは公爵の背後に隠れた。エドモンドはふっと笑い、カダール侯爵の元へ足を向け、ミレーユから離れていく。
「カ、カダール……侯爵、これは」
動揺する公爵に対して、侯爵は「一体何なのです」と飄々として言ってみせる。しかし公爵が一枚はらりと床に落としてしまい、それを拾って見てみると、先まで取り繕っていた余裕の表情が脆く崩れた。
「へ、陛下……!これは、い、いや、これは……」
一体、侯爵は何に焦っているのか。ミレーユは理解が出来ず、父の手元を覗き見る。そこにはなんだかよく分からないお金の単位と、カダール侯爵のサインが書かれていた。文字を読んでみて、やっとミレーユは理解する。
(カダール侯爵は……誰かから借金をしていた?いえ、でも借金先は……この国の人じゃないのかも。お金の単位が違うもの)
「他国の貴族と個人的に莫大な金の貸し借りをすることは、国の法で禁止されていることは知っているな」
「……っく」
エドモンドは余裕綽綽の笑みを浮かべて、カダール侯爵に問いかける。ついにカダール侯爵はその表情を曇らせ、その場に頽れた。すでに空気と化しているアランの方はというと、自らの父親が借金していることを知っていたのだろう。悔しそうに唇を噛み締めている。
「こんな莫大な量の借金はどうしたって、侯爵の力だけでは返せない。そこで公爵家の財産を自らのものにするために、アランをミレーユ嬢に近づけたのではないか?なあ、侯爵」
侯爵は答えない。けれど、説明されると辻褄が見事にあってしまう。侯爵の妹はすでに第二皇子を産んでいる。それだけでも十分な権力は得られるだろうに。なぜ、侯爵は、アランをミレーユにあてがおうとしたのか。
──……それは自らの借金を返済するため。
「なんということだ!……」
公爵は怒りに任せて地団駄を踏んだ。
と、不穏な空気が一層淀みかけた時、凛とした声音が大広間に響いた。聞き覚えのある声にミレーユは肩をビクリと震わせる。
「エドモンド」
その名を呼んだのは、何と国王だった。しかし国王が名を呼んだのに対して、エドモンドは僅かに微笑むだけで何も答えない。彼の手にはいくつかの黄ばんだ紙が握られていた。彼は王族を前にしても悠々とした足取りで玉座のあるところまでのぼり、黄ばんだ紙をリダルと国王に物怖じなど微塵もせず、手渡す。
「これは……!」
国王は目を細め、カダール侯爵を睨みつけた。一体、彼らが何を見ているのか、公爵は国王に問いかける。
「国王陛下、一体どうなさいましたか」
公爵の問いかけに、国王は気を取り直した風にエドモンドを見仰ぎ、黄ばんだ紙を公爵に見せるように指示する。エドモンドは公爵へ紙を渡した後、懐へ手を突っ込み、ミレーユへあるものを手渡した。
「落としましたね、お嬢さん」
咄嗟に出してしまった手。握りしめた拳を開く。
「……!」
コロンと手の平に転がったのは、玻璃の耳飾り。あの路地で落としてしまったはずのそれ。一体どうしてエドモンドは、これがミレーユのものだと気づいたのか。いよいよ恐ろしくなって、ミレーユは公爵の背後に隠れた。エドモンドはふっと笑い、カダール侯爵の元へ足を向け、ミレーユから離れていく。
「カ、カダール……侯爵、これは」
動揺する公爵に対して、侯爵は「一体何なのです」と飄々として言ってみせる。しかし公爵が一枚はらりと床に落としてしまい、それを拾って見てみると、先まで取り繕っていた余裕の表情が脆く崩れた。
「へ、陛下……!これは、い、いや、これは……」
一体、侯爵は何に焦っているのか。ミレーユは理解が出来ず、父の手元を覗き見る。そこにはなんだかよく分からないお金の単位と、カダール侯爵のサインが書かれていた。文字を読んでみて、やっとミレーユは理解する。
(カダール侯爵は……誰かから借金をしていた?いえ、でも借金先は……この国の人じゃないのかも。お金の単位が違うもの)
「他国の貴族と個人的に莫大な金の貸し借りをすることは、国の法で禁止されていることは知っているな」
「……っく」
エドモンドは余裕綽綽の笑みを浮かべて、カダール侯爵に問いかける。ついにカダール侯爵はその表情を曇らせ、その場に頽れた。すでに空気と化しているアランの方はというと、自らの父親が借金していることを知っていたのだろう。悔しそうに唇を噛み締めている。
「こんな莫大な量の借金はどうしたって、侯爵の力だけでは返せない。そこで公爵家の財産を自らのものにするために、アランをミレーユ嬢に近づけたのではないか?なあ、侯爵」
侯爵は答えない。けれど、説明されると辻褄が見事にあってしまう。侯爵の妹はすでに第二皇子を産んでいる。それだけでも十分な権力は得られるだろうに。なぜ、侯爵は、アランをミレーユにあてがおうとしたのか。
──……それは自らの借金を返済するため。
「なんということだ!……」
公爵は怒りに任せて地団駄を踏んだ。
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