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玉座より

酷薄

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「ああ、そういうことですか、そういうことなのですね!?」

突然、狂言者のように振る舞い始めたカダール侯爵に周囲は訝し気な視線を向ける。侯爵は左右に手を振り、淀んだ空気をかき混ぜた。何が変わるわけでもあるまいに。彼は狂ってしまったのかもしれない。ミレーユはそう考えた。が、次の瞬間、侯爵は酷薄な笑みを浮かべ、理路整然と喋り始めた。

「ミレーユ様、私の記憶が正しければ、公爵邸で行われた婚約祝いのパーティーは夜に行われたのでしたね?中庭にはランプなどなく、ただ月明りだけが地へ降りそそぐのみであったはず。そんな薄暗闇の中で本当にこの愚息とそのメイドが情を交わしていたと言い切れるのですか?」

とことん馬鹿げた問いかけだと思う。分かるに決まっているだろう。なにせ月明りの降りそそぐ中庭であっても、2人の交じりあう姿と影は十分に見えたし、なにより、声だって聞いている。未だ鼓膜にへばりついて取れやしないエリーの甘ったるい声音と、アランの気持ちの悪い息遣いを。ミレーユはしっかりと覚えていた。

「私の娘が嘘を吐くとでもいいたいのかね」

公爵の問いかけに、カダール侯爵は「いいえ、滅相もございません……」と勿体ぶった様子で、ちらりとリダルへ視線を注ぎ、口角をいやらしく跳ね上げた。

「……こうは考えられませんか?全ては、誰かが仕組んだ陰謀であるのだと」
「どういうことかね」

公爵は冷静に問いかけた。

「私の妹は、陛下の側室でございます。そして第二皇子を産んだ妃でもございます。我が妹の産んだ第二皇子は大変優秀で、人柄も良い。しかも、この愚息は公爵家のたった一人の令嬢であるミレーユ様の婚約者となった。誰もが思うことでしょう。我が一族こそ、この世の春を謳歌する者達だと!そう、そんな我が一族を妬んだ者が、愚息とそのメイドとやらが『情を交わしているように見える角度から』その場面を陛下に見せた……とは考えられませんか」


ミレーユはドキリとした。そうだ。確かに、アランとエリ―が王宮で会うように画策したのはエドモンドとミレーユ自身だ。加えて、エドモンドは茶会を提案したリダルとは親しい様子だったから、おそらくこの画策はエドモンドとリダルが示し合わせたものと考えていいだろう。

そう考えると、侯爵の指摘はなかなかに鋭い。それこそ何の脈絡もないことをでっちあげているつもりなのだろうが、彼の言う事は的を得ている。

「……では、その何者とは誰だ」

問いかけたのは、国王だった。カダール侯爵は「それは分かりかねます」ときっぱり答える。

「しかし、調査する猶予はくださいませんか」

カダール侯爵は、そう提案した。彼は時間を作ろうとしている。今はまだ取り繕う時間が足りないといったところか。

リダルも分かっているだろう。ここで猶予を与えたら侯爵は何か狡猾な手を打ってくる、と。

一瞬の沈黙。

再び口を開いたのは、リダルだった。彼は何かを堪えるようにして、眉を顰める。
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