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File No. 98 意図せぬ探索
しおりを挟む迎えの車(警察車両)に乗り、僕は自分のアパートにやっと戻ることができた。
竜崎も一緒に降り、そこから自分ちに帰ろうとするので、僕は思い切って誘ってみた。
「寄ってってよ……今日はもう、大学行かないだろ?」
ただいま、月曜日の午後1時を過ぎたところ。僕は竜崎の時間割を把握してるので(ストーカーみたい)、4時限目がないことはわかってる。3時限目ももう始まってる。
「ああ、腹も減ったしなあ。ピザでも出前取るか」
良かった! 断られなかった。あの時、ちゃんとした答えはもらえなかったけど、憎からず思ってもらえてるよな。
僕は必要以上にドキドキしてる。もちろんあの夜のような鼓動とは全く違う。
「うん。そうしよう」
僕はもう、飛び跳ねたい気持ちを抑えるので精いっぱい。部屋に入るとすぐ、散らかった部屋を大急ぎで片づけた。
「そんな慌てて片づけなくても大丈夫だよ。疲れてないようでも実はダメージあるもんだぞ? スタンガンやられてトランクに詰め込まれてたんだから」
後ろから竜崎がそう声をかける。そうかもしれないけど、今は不謹慎にも嬉しさが勝ってアドレナリンが出まくってる。
ピザの注文をしてる間に、竜崎が珈琲を淹れてくれた。といってもインスタントだけど。
前回と同じように、竜崎はクッションの上に胡坐をかいた。
「ところで竜崎。入間教授たちは、どうして僕を連れ去ったんだ? 風見刑事もそこのところ、教えてくれなかったよな」
「は? 藍、わかってないのか? そりゃ、風見さんは言う必要ないと思ったんだと……」
呆れたかのように見開いた双眸を僕に向けてくる。いつもの鋭い切れ長とはまた違った良さがある。とか思ってる場合ではないか。
「いや……全く……」
僕が首を横に振ると、はあっと大きく息を吐いた。
「今のを入間教授たちに聞かせたいよ。なんて言うか興味あるな」
入間教授も吉川准教授も、竜崎の存在を疎ましく思っていた。
ガードの弱そうな僕から、何かしら情報を引き出そうとしても、どこからともなく現れ肝心なことを聞けないでいたらしい。
『竜崎君がどこまでこの事件に迫っているのか、知りたかったんだけどね。警察よりも、大学の中のことは学生の方がわかってる。彼が鋭いのなんて、誰もが知るところだったから』
これは後に風見刑事から聞いたことだ。僕ほど竜崎に詳しい者はいないと思っていたのに、全然知らなかったこと。
竜崎は2年生の内に、既にいくつかの賞を取っていた。外部の賞で全てエジプトやピラミッドについての考察だ。マイナーな雑誌やニッチ分野の賞だけど、教授たちのなかでは相当有名だったらしい。
竜崎もそういうの全然言わないから、学生ではごく一部の土木の人しか知らなかったんだ。
「鏑木から聞いたけど、あの日の午前中、吉川先生に絡まれてたんだろ? その時なにか変わったことなかった?」
「あ、ああ。そうだな……」
いつの間にそんなことを鏑木から聞いたのか。いや、それはいい。僕はつい二日前の吉川先生との会話を思い出そうと頑張った。もう随分と昔の話のような気がする。
「ああ、ええと。教授の部屋の奥にある納戸から道具を取り出していて……。そう、とげが刺さったんだ」
僕はその時の様子を鮮明に思いだし、竜崎に丁寧に話して聞かした。竜崎は一つ一つに頷き、話し終わると満を持したようにこう言った。
「そのリップクリームは、吉川先生が能代さんに青酸カリを仕込むように買ったものだったんだよ。使わなかったのを捨てずに自分で使うなんて、意外にみみっちいとこあるんだな。
それに藍はその後、連休のこと聞いたろ? 連休で教授のメールを確認したと。能代さんの脅迫メールを彼女が読むことが出来たか、確かめられたと思ったんだよ」
全く僕が意図しなかったことだ。今度は僕の方が目を見開いて竜崎を見た。
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